解 説
外国語ICT学習技術の研究開発と応用

小特集
ディジタルヒューマンインタフェースの新潮流

解 説

外国語ICT学習技術の
研究開発と応用

山田玲子 Reiko Akahane-Yamada ATR Learning Technology

田川博章 Hiroaki Tagawa ATR Learning Technology

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はじめに

日本の学校教育現場における英語のICT 教材はLL(Language Laboratory)が普及していたことを受け継ぎ,CALL(Computer Assisted Language Learning)として,ほかの教育分野の教材に先駆けて独自の発展を遂げた. 更に,2000 年頃からe-Learning, つまりWeb ブラウザを介して行う教育・学習の形態が普及し,スマホやタブレットの普及もあいまって,英語学習のためのコースやアプリが数多く開発されるようになり,発展し続けている.

しかし,質においてその発展を支えたのは,外国語音声学習の研究と音声情報処理技術であろう.外国語学習には「読む」「書く」「聞く」「話す」の4 技能の習得が必要と言われるが,ICT 教材は従来の読み書き中心の日本の英語教育で欠けていた「聞く」「話す」について解決の糸口を与えたと言える.

筆者らは日本語母語話者に対する英語音声学習を具体例として、第二言語の音声習得に関する基礎研究及び発音学習に必要な要素技術の研究開発を行い,それらを応用して「ATR CALL」という ICT 教材を開発し(1),市場に供している.本稿では,英語音声の訓練研究結果を概観,特に音声を中心とした学習の重要性について考察し,オンラインICT 教材への応用について概観する.また,そのような音声学習を中心とした教材では学習者の発音の評価が必須であり,その要素技術としてATRCALL に組み込まれた発音評定技術の基本的な仕組みについて紹介する.

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外国語音声学習の研究

2.1 非母語音声対立の知覚・生成の困難

1970 年頃盛んとなった言語間比較研究(Cross-Language Study)では,母語の違いにより音声の知覚が異なることを示す膨大な例証が報告された(2)〜(5)など.それらは母語にない音韻対立の習得が困難であることを示したが,日本語母語話者による英語/r/-/l/ 音対立の困難は,その典型例として頻繁に研究対象となった(6)ほか.その困難の説明モデルとして,知覚面ではPerceptual­Assimilation Model(7),生成に重点を置いたモデルではSpeech Learning Model(8)が提唱された.

2.2 外国語音声訓練研究

1980 年代に実験室での訓練研究(Laboratory­Training Study)が始まり,インディアナ大学とATRが共同で,日本語母語話者を対象とした/r//l/ 音の知覚訓練を系統的に実施し,訓練効果の般化や長期保持などの事実から,成人でも訓練効果があることを示した(9)ほか(図1).

更に,同様の学習実験の手法を用いて,知覚訓練の効果が生成にも転移すること,生成訓練の効果が知覚にも転移することが報告された(10)〜(12)(図2).

その後,訓練対象となる言語や訓練課題を変えて様々な研究が行われ,例えば中国語の音調の区別(13),日本語の特殊拍の区別(14)〜(16)など韻律的な特徴による対立………

図1 日本人成人を対象とした/r//l/ 知覚訓練の結果.横軸は時系列順にテスト(赤)と訓練ブロック(青)とし,正答率(縦軸)の変化を示した.(文献(9)から改変)

図1 日本人成人を対象とした/r//l/ 知覚訓練の結果.横軸は時系列順にテスト(赤)と訓練ブロック(青)とし,正答率(縦軸)の変化を示した.(文献(9)から改変)