解説論文 
個別最適化した絵本の作成と推薦による絵本の読み聞かせ支援

小特集
ディジタルヒューマンインタフェースの新潮流

個別最適化した絵本の作成と推薦による
絵本の読み聞かせ支援

Picture Book Reading Support Using Personalized Picture Books and its Recommendation

小林哲生 Tessei Kobayashi

Summery 絵本の読み聞かせは,乳幼児の言語発達を後押しするとともに,就学後の文章読解力や算数の成績に寄与する可能性も指摘され,注目が集まっている.本稿では,絵本の読み聞かせを支援するためのツールとして考案した個別最適化した絵本や,個人の発達や興味に合わせて検索するAI 絵本検索システムなどについて解説するとともに,それらを用いて自治体と共同で取り組んでいる実践的試みについても紹介する.

Key Words 言語習得,幼児教育支援,個別最適化,絵本

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はじめに

絵本の読み聞かせは,乳幼児の言語発達を後押しするとともに,将来の文章読解力や算数の成績に寄与する可能性も指摘され,注目を集めている.乳幼児や児童の発達プロセスを研究する発達心理学の分野では,絵本の読み聞かせが子どもの獲得語彙数と関連することなどを示し,その重要性を主張してきた(1).また多くの自治体では,乳児健診の際に絵本を贈呈する事業を実施し,絵本の読み聞かせの重要性を積極的に伝えている(2).本稿では,絵本に関連する最近の研究と実践的試みを解説しながら,私たちが行っている新しい試みについて紹介する.

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2 言語習得と絵本

ヒトの乳幼児は生後数年の間に,言語を自然と習得していく.出産直後はただひたすら泣くことしかできなかった新生児が,クーイング(「あー」や「くー」)や喃語(なんご: 「まままま」や「だだだだ」)などの発声の時期を経て,1 歳の誕生日前後から「まんま」や「ママ」などの初語(意味のある最初の単語)を話し始める.初語が出てから半年くらいは新しい語がたまに発話されるくらいだが,1歳半を過ぎた頃から新しい語を頻繁に発話できるようになる語彙爆発(vocabulary explosion)の時期を迎える.語彙爆発の開始時期や速度には個人差があるが,日本の子供を対象とした私たちの研究では,平均20.2 か月時に語彙爆発が始まり,1 日に平均0.83 語のペースで新しい語が発話されるようになり,それ以前の約5.1 倍の速度に上昇することを示している(3).2 歳の誕生日(24 か月時点)を迎える頃には平均258.5 語,3 歳の誕生日の頃には平均1244.7 語の語を発話できるようになる(4).また2 歳の誕生日前後からは,語をつなげて二語文や三語文などを発話できるようにもなり,語彙だけでなく文法の知識も身に付けていく.

こうした乳幼児の音声言語の発達を下支えしているのは,言うまでもなく,両親や家族といった養育者からの言語インプットである.乳幼児は,周りの環境で話されている言語インプットを参考にして,語彙や文法を学習し,言葉を発せるようになっていく.その際に,養育者が乳幼児に向かって直接話す自然発話だけでなく,絵本の読み聞かせによる言語インプットも,乳幼児の語彙や文法の発達に寄与する重要な手掛かりと考えられている.その理由として,絵本には養育者の自然発話よりも,多様な語彙(5) , (6) と複雑な文(7) が出現し,変化に富む多様な言語インプットが提供されるためだと考えられている.つまり,絵本には,親子の普段のやり取りには出てこない語彙がより多く含まれるとともに,格助詞が省略されない文がより多く出現したりして,新しい語を獲得する際の絶好の機会を与えている.

米国で行われた縦断調査(8) では,1〜2 歳時点で行われた養育者による絵本の読み聞かせの頻度が,8〜9 歳時点の①理解可能な語彙数,②文章読解力,………

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