解 説
フェーズフリーの概念とインタフェースデザインの可能性

小特集
ディジタルヒューマンインタフェースの新潮流

解 説

フェーズフリーの概念とインタフェースデザインの可能性

松崎 元 Gen Matsuzaki 千葉工業大学

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はじめに

日々世界のどこかで発生している自然災害,ニュースで目にする様々な事件や事故,けが・病気・加齢などによる生活の変化に対して,誰しも備えておくことの重要性は理解できる.一方で,日頃から非常時を想定して事前に時間やコスト,労力を掛けることが難しいのも現実である.大きな災害後の社会では,防災意識が高まり,備えることの重要性が再認識される.また,人々は,事故でのけがや病気を経験することで,安全や健康の大切さを知り,家族や友人のありがたさを改めて感じる.しかし,このような意識は時間の流れとともに薄れていき,忘れた頃にまた災害や事故などの被害が繰り返されるのである.「フェーズフリー」 (注1)とは,こうした「備え続けられない」という人々・社会が抱える問題に対して,日常時と非常時の状態(フェーズ,Phase)を分けて考えるのではなく,普段から両方の価値を高めることにより,QOL(生活の質,Quality of life)を維持・向上させ,結果として備わった社会を作り出すという防災に関連した概念である(1),(2)(図1,2).その対象領域に制限はなく,身の回りのプロダクトからサービス,建物や施設などのファシリティ,ものごとの仕組みから働き方,教育に至るまで,既に多くの分野で注目され,普及し始めている.本稿では,このフェーズフリーの考え方とともに具体的な事例を紹介し,特に,情報通信技術の一部であるヒューマンインタフェースデザインに関わる分野での今後の可能性について解説する.

図1 フェーズフリーの考え方

図1 フェーズフリーの考え方

図2 フェーズフリーデザインが提供する価値

図2 フェーズフリーデザインが提供する価値

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フェーズフリー5原則

フェーズフリーは目指すべき状態を表した概念であり,それを実現するためのプロダクトやサービス,ファシリティを構築するのがフェーズフリーデザインである.以下の五つの原則(図3)に基づいた商品やサービ………

注1 「 フェーズフリー」とは,2014年に社会起業家の佐藤唯行によって提唱された言葉で,平常時(日常時)や災害時(非常時)などのフェーズ(社会の状態)にかかわらず,適切な生活の質を確保しようとする概念である.