解説論文 
文化・技術・研究史で読み解く令和のメタバースの研究開発

小特集
ディジタルヒューマンインタフェースの新潮流

文化・技術・研究史で読み解く令和のメタバースの研究開発

Research and Development of the Metaverse of the Reiwa era - Read the History of Culture, Technology and Research around 2022

白井暁彦 Akihiko Shirai

Summery 近年再注目されている「メタバース分野」への期待と不安,不明瞭さを専門家として整理する.前半はメタバースの歴史,定義,特にコンテンツとその受容,研究分野への影響,更に VR やエンターテインメント分野におけるUGC(User Generated Contents)と技術革新の歴史をまとめ,後半はスマートフォン向けメタバース「REALITY」を中心とした「令和のメタバース」研究開発の現場における,最先端の活動や考え方を整理する.エンターテインメント分野では常識となっている部分も多いが,進化の速い分野でもあり,工学の視点で隣接する他の研究開発分野に向けて,歴史を記録する目的も考慮しながらまとめた.

Key Words メタバース,VR,エンターテインメント,UGC(User Generated Contents),REALITY

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はじめに

本稿はメタバース研究開発における,最先端の活動や考え方,特に工学に隣接する他の研究開発分野に向けて,本分野を深く分析するベースになる知識や考え方を整理して理解するための解説論文とする.エンターテインメント工学分野では常識となる要素も多いが,一般的な消費者から見れば,おおらかであやふやな世界に見えるエンターテインメントの最先端は,これまでの電子情報通信分野において軽んじられてきたのかもしれない.本稿では「令和のメタバース」という切り口を使って,メタバースを取り巻く文化史・技術史・研究史から,読者の認識を新たにすることを狙いとする.可能な限り最新の研究や論文などの文献,エビデンスとともに打ち立てていく内容を目指しているが,回転が速い分野であり賞味期限が短い論文になるかもしれない.しかし書き残しておくことには意味があるはずである.また画像を多く使いたい分野であるが,紙面やライツ管理の都合から,文字と引用で表現することをお許し願いたい.多くは筆者の論文(1)や書籍,動画像,Web サイト(vr.gree.net/lab) やTwitter@VRStudioLab で発信しているため,併せて参照されたい.

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メタバースの歴史

2. 1 投資家視点のメタバース・その規模と背景

多くの読者にとって「メタバース」は初めて聞く単語ではないだろう.近年特に影響を及ぼしている存在はアメリカの投資家であるが,その一人であるMatthieu Ball 著「The Metaverse: And How it Will Revo­lutionize Everything」(2)によると,メタバースの最も一般的な概念は,サイエンスフィクション(SF)に由来している.一言で表現すれば,「インターネットへのジャックイン」としての描写,映画「レディ・プレイヤー・ワン」や「マトリックス」で描かれるような,バーチャルなテーマパークのような世界に基づくものであると具体的に作品名を挙げて例示している.Ball は「1980 年当時,『インターネットにログオンしたことさえなかった人々』に,2020年のログオンを伝えるのは困難だろう」と表現している.その舞台設定として「テーマパーク的なエンターテインメント」をSF 映画のタイトルとともに例示していることは,この分野における人々とのインタフェースにとって,いかにSF 映画のようなポピュラーコンテンツが重要であるかを,理解できる.Ballは更に「メタバースのコア属性」として,①永続的,②同期的かつライブで,③スケールし,④完全に機能する経済があり,⑤複数の世界を横断し,⑥「コンテンツ」と「体験」が存在すること,と語っている.メタバースは,ディジタルと物理の世界,プライベートとパブリックのネットワーク,オープン若しくはクローズのプラットホームの両方にまたがる経験………

REALITY 株式会社GREE VR Studio Laboratory,東京都

GREE VR Studio Laboratory, REALITY, Inc.,Tokyo,106-0032 Japan