巻末言

巻末言

宝石はいまどこにあるか?

和文論文誌B 編集委員長 小川猛志Takeshi Ogawa

これを読んで頂いている皆さん(特に論文に関心はあるが,執筆を迷われている学生・若手研究者の皆さん),目をお留め頂きありがとうございます.日本全体の論文数が伸び悩んでいるようです(1).和文論文誌編集委員長として和文論文誌の役割や査読の基準などを紹介し,皆さんへのお願いを書かせて頂きます.

1)論文誌の役割:論文誌とは,有効で新しい技術的知見を速やかに社会で共有し,活用できるようにする仕組みと捉えています.採録の是非は当該論文に近い分野の複数の専門家の判断を基に決められ,また,採録後相互に引用されることで評価が高まるという点で,特定の権威や権力に縛られない自由と公平性を担保しています.海外への広い発信を考慮すると英文が有利ですが,日本語を母国語とする方に分かりやすく伝えるなどの観点では,和文論文が良いと思っています.和文論文誌が充実することで世界(特に日本)は良くなると信じて,論文誌の編集に取り組んでいます.

2)査読の基準:読者の期待に応えるため,一定基準以上の読む価値がある論文を掲載する必要があります.このため,投稿頂いた論文は,当該分野が御専門の査読委員にお願いして査読を行っています.和文論文誌の採録基準は,① 学術的に新しい(公知,既発表でない)点があり(新規性),② それらが学術や産業の発展に何らかの意味で役立つものであり(有効性),③ 内容が信頼できるように記述してあり(信頼性),④ 本会の一般的な読者が理解できるように書かれている(了解性),の四つです(2),(3).論文の内容は掲載に適すると考えられるものであっても,部分的に誤りや記述の不備などがある場合は「条件付き採録」として, 条件を示して著者に修正をお願いしています.「条件付き採録」と判定された論文は,一定期間(通常60 日間)以内に修正論文が再投稿され,条件が満たされていれば「採録」,満たされていなければ「不採録」となります.なお,採否の判断に迷った際の原則は「石を拾うことをおそれ宝石を逃すことなかれ」です.多少の不備や不足があっても,社会に役立つ可能性がある知見が含まれていれば,修正により採録できないか極力前向きに検討しています.

3)編集委員会の役割:和文論文誌では編集委員会を8 月と2 月を除いて毎月開催しており,全ての論文は編集委員会の場で担当編集委員による報告・説明を基に審議し,その審議結果を著者に通知することを大原則としています(3).なお,査読委員の判定内容や担当編集委員の見解が共通して同一の判断を下した場合は,迅速性を重んじて編集委員会の審議を待たずに著者に通知していますが,その場合でも幹事が不採録理由や採録条件の内容が妥当か,また著者に誤解なく伝わるか,などの観点で確認を行っています.

投稿頂いた論文の「宝石」の部分を極力読み取り,必要があればその価値を読者の皆様が十分理解できるように著者に論文を「磨いて」頂き,その完成を見届けて論文誌への掲載を認めるのが編集委員会の役割だと思っています.

なお,編集委員は任期4 年,幹事は任期2 年で毎年少しずつ入れ替わります.それまでの編集の仕方との連続性を担保しながら,新しい視点を取り入れて自己点検・改善を続けています.例えば2022 年度には,ソサイエティにまたがった境界分野について,他ソサイエティとの共催特集号を企画し,投稿しやすくする試みにもチャレンジしています.

4)宝石はいまどこにあるか?:世界に共有すべき知見が論文化されずに埋もれている可能性を危惧しています.特に学生・若手研究者の皆さん,宝石は間違いなく,皆さんの中にあります.今は形になっていなくても,皆さんは近い将来,宝石またはその原石を生み出します.皆さんは世界をより良くする能力と権利があります.そして皆さんが生み出す宝石を世界に知らしめ共有する義務があると私は信じています.

特に初めての投稿の場合,どうしても査読の結果が気になりますが,不採録は怖くありません! 恥ずかしいことでもありません.著者が気づかなかった先行研究が見つかり,新規性や有効性を示せず,不採録と判断されることもあります.大変残念な結果ではありますが,専門の方から貴重な情報をもらえた,とも言えます.実のところ,不採録理由の大部分は「主張が不明確」です.そしてその場合,何が不明確だったのか,具体的に列挙されます.それらをヒントに修正することで,次の投稿では採録される可能性が高くなります.査読システムはうまく活用すれば著者の味方です.査読をおそれ宝石を埋もれさすなかれ! 御投稿をお待ちしています.

(1) 科学技術・学術政策研究所,“ 科学技術指標2022,”

https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2022/RM318_table.html

(2) 電子情報通信学会 和文論文誌B,“投稿のしおり,”

https://www.ieice.org/jpn/shiori/cs_mokuji.html, 参照 Aug. 22, 2022.

(3) 山里敬也, 佐波孝彦, 塩田茂雄, 太田 能,“査読の虎の巻,”信学通誌, vol. 6, no. 3, pp. 222-230,March 2013.

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