若者よ、世界に出よう!
夢の実現可能性を信じて日本で研究に情熱を注ぐ

夢の実現可能性を
信じて
日本で
研究に情熱を注ぐ

(株)国際電気通信基礎技術研究所 OJETUNDE, Babatunde Segun

1 はじめに

途上国で生まれ育った私は,私たちが日常生活で直面する様々な問題を技術革新によって解決することに強い関心を持っていました.この思いを現実にするために,大学ではコンピュータサイエンスとエンジニアリングを専攻しました.2012 年,私は人生の新たな旅を始めるために来日し,修士課程の学生になりました.現在は,(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)で研究者として働いています.来日当初,私費留学生だった私は勉学と学費の確保を両立させるのに苦労しました.また,当時は日本語を話すことができず,日本での新しい環境に慣れるのも大変でした.文部科学省の奨学金を得て来日する学生の多くが就学前に日本語の学習機会を与えられるのに対し,私の場合は少し事情が違っていました.しかし,奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)に入学した後は,スタッフや留学生仲間の支援を受けて,状況は改善されました.この記事では,私の日本での学生としての経験と研究者としての今の生活を紹介します.

2 来日の決意

日本に来る前,私はナイジェリアで大学を卒業し,銀行に就職してATM の導入や監視を担当するシステムエンジニアとして働いていました.更に,IT 監査担当者と協力して,電子詐欺の特定や預金保全の業務も行っていました.この経験が私にとって,この分野の勉強を更に深めたいと考えるきっかけになりました.私は新たな勉学の地として日本を選びました.それは,日本は技術がより進んでいる国だと思ったからです.

来日した当初,ナイジェリアと日本の文化的な違いに大変戸惑いました.その一方で,両国とも文化遺産を大切にするという共通点もありました.奈良に住み始めた私の次の課題は,大学院の修士課程に入学することでした.まず,私を受け入れてもらえる大学院を探す必要がありました.既に文部科学省の奨学金を受けて博士課程に在学していた妻と一緒に,候補となる大学院をたくさん調べましたが,電子決済や仮想通貨の研究ができそうな研究室は見つかりませんでした.研究室探しで多くの失敗を経験した末,NAIST の岡田実教授に連絡し,相談を持ち掛けました.

先生は私の考えを聞いて下さり,同じ大学のモバイルコンピューティング研究室を御紹介下さいました.この研究室には,柴田直樹教授と伊藤実教授がおられ,私の研究計画を受け入れて頂き研究室へ入学することを認めて頂きました.私はこの研究室にすぐに魅力を感じました.というのも研究室では数多くの面白い研究が行われていましたし,NAIST が日本で最も優れた大学の一つであるとの報告書も目にしていたからです.また,研究室には多様な学生が在籍している点や,研究室の卒業生が在学生に良い影響を与えている点にも魅力を感じました.私にとって日本で勉強する目的は,より多くの経験を得て,情報技術の専門知識を深めることでした.NAIST での環境は正にこの目的を果たすのに最適でした.私は無事に修士号を取得し,博士課程へと進学しました.

3 学生生活

私は,NAIST のモバイルコンピューティング研究室に修士課程の私費留学生として入学しました.そこには, 日本人だけでなく,中国,フィリピンからの留学生もいました.これまで,NAIST には様々な国の留学生がいましたが,ナイジェリアからの留学生は私が初めてでした.研究室の学生として,私は研究結果を毎週研究室で発表しなければなりませんでした.これは,ナイジェリアの大学で経験した研究アプローチとは全く異なっていました.しかしながら,既に社会人としての実務経験があったおかげでうまく対応できました.研究室内で私の研究内容や進捗状況について発表したり,教授と議論したりすることはすばら………