こんなツール,使っています 
ネットワークシミュレータQualNetでスマートフォンの通信を再現

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こんなツール

使っています

ネットワークシミュレータQualNetで
スマートフォンの通信を再現

(株)構造計画研究所 遠矢 楓 Kaede Toya

 東屋航紀 Koki Azumaya

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はじめに

私たちの生活が通信と切り離せないものとなって久しい.調べ物やコミュニケーションにインターネットを利用する場面のみでなく,スマートフォンを使って現在地を取得したり,ワイヤレスイヤホンを使用したりなど,生活のあらゆる場面で通信を利用している.

現在の通信機能は図1 のような七つの層から成るモデルを基本原理として設計されており,各層がそれぞれの機能を果たすことで成立している.例えば図1 における第1 層の物理層は,コンピュータのディジタルデータを電気信号や光といった物理的な信号として送信,受信する機能を担う.機器同士が通信するにはここで使う通信方式(変換方式や信号の種類)が同じである必要があるため,国際的に約束事が決められている.この約束事のことを「プロトコル」と呼ぶ.Wi-Fi やLTE,5Gといった言葉はよく耳にすると思うが,これらは物理層及びデータリンク層のプロトコルである.

機能ごとに層分けすると,次のような利点がある.例えば,動画像を視聴しながら移動している途中で,LTEからWi-Fi に切り換わったとしても,同じアプリケーションで動画像を視聴し続けることができる.これは,データリンク層及び物理層のプロトコルの切換をスムーズに行うシステムがスマートフォンに備わっており,アプリケーション層はその切換を気にしなくてよいように作られているためである.

現在広く用いられているプロトコルは研究の成果により,速度や信頼性といった面で高度に効率化されているが,非常に複雑でもある.単体でも複雑なプロトコルを更に切り換えて通信を行うことが当たり前になってきたために,通信の流れを把握したり通信品質を計算で導き出したり,といったことが困難になってきた.

そこで,層をまたいで通信全体を総合的,体系的に評価する手段としてネットワークシミュレーションを紹介する.シミュレーションとは,コンピュータのソフトウェア上でモデルを作成し,現実世界での動きを計算機の中で模擬することである.この手法を取ることで,前述の課題にアプローチできる.その上,通信機器を何十台,何百台と使った場面や衛星通信など,実際に検証するとなると莫大なコストが掛かってしまう通信についても,事前に評価を行うことができる.

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QualNetについて

QualNet(1) は米国Keysight 社( 旧SCALABLE 社)が開発・販売を行っているネットワークシミュレータである.ネットワークシミュレータはオープンソースなどをはじめ多数存在するが,それらと比較した場合のQualNet の特徴として以下の点が挙げられる.………

図1 OSI 基本参照モデルに基づいた通信プロトコルスタック

図1 OSI 基本参照モデルに基づいた通信プロトコルスタック