開発物語
深海8,000mに挑んだ「江戸っ子1号プロジェクト」に関わって

開発物語

深海8,000mに挑んだ「江戸っ子1号プロジェクト」に関わって

芝浦工業大学 
小池義和 Yoshikazu Koike
芝浦工業大学 
森野博章 Hiroaki Morino

1.はじめに

深海は最後のフロンティアと呼ばれ,深海観測は現在でも重要な課題である.国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)など日本を代表する海洋研究機関に余り関わり合いを持たない東京の下町の中小企業が中心となって,深海探査を実現しようという「江戸っ子1号開発プロジェクト」は2009年11月に結成された(1).プロジェクトでは図1に示す3機の観測機を開発し,2013年11月21日から24日にかけて,JAMSTECの調査船「かいよう」を母船として,最大水深8,000m地点への潜航実験を行っている.場所は房総半島から東へ約200km,日本海溝付近であり,水深4,000mと8,000mの地点にそれぞれ投下した.図2,図3に示すようにプロジェクトは目標である深海8,000mの3D動画像の撮影に世界で初めて成功することができた.

また,江戸っ子1号プロジェクトでは,それまでのガラス球を用いた海洋観測機で利用されることが少なかった非接触給電や非接触データ転送,誘電体を用いた密閉されたガラス球間の通信などにも取り組んでいた.

今回,ほかの記事で語られることが少なかった部分も含めて江戸っ子1号の開発について紹介するとともに,研究分野を広げるきっかけの参考事例として捉えて頂ければ幸いである.

図1 江戸っ子1号プロジェクトで開発した機体

図1 江戸っ子1号プロジェクトで開発した機体

2.江戸っ子1号プロジェクトの機体と動作

江戸っ子1号はプロジェクトのメンバー企業である岡本硝子により開発されたガラス球に機材を設置する.そして,バキュームモールド工業で開発された樹脂カバーでガラス球を支持して機体を構成し,深海8,000mの高圧に耐えられる観測機を実現している.図4に開発されたガラス球とカバーを示す.図5には機体の構成を示す.江戸っ子1………

図2 江戸っ子1号3号機の取得映像

図2 江戸っ子1号3号機の取得映像

図3 江戸っ子1号4号機の取得映像

図3 江戸っ子1号4号機の取得映像