解説論文 
発達障害児者支援のためのICT個別教育支援システム

小特集
教育分野におけるICT 利活用の実例と展望

発達障害児者支援のためのICT個別教育支援システム

ICT Individualized Education Support System for Supporting Children with Developmental Disabilities

小越康宏 Yasuhiro Ogoshi

小越咲子 Sakiko Ogoshi††

Summery 近年,AD/HD(注意欠如/多動性障害),ASD(自閉スペクトラム症),LD(学習障害)などの発達障害を抱え,特別な教育ニーズを有する子供への特性に応じた教育・支援が課題となっている.しかし,発達障害は状態像がつかみにくく百人百様の状態像を持ち,各児の特徴に応じた支援には不十分な面が多い.2016 年から「障害者差別解消法」が施行された.この中の「合理的配慮」とは,障害を持つ人々に対して必要な環境整備などの支援を行うことであるが,現状,「困り感」とマッチングがうまくいっていないために,支援も受けていない児童生徒が多い現状がうかがえる.そこで,個人の特性を把握するために,日々の学校,家庭,地域内での行動履歴・学習情報などを蓄積,ビッグデータから支援プランを導出し,個人の特性に合わせた支援を提供するシステムを開発した.発達障害児者の個人の行動情報・学習情報などを密に収集し,多様な個人特性に応じた多様な教育支援をダイナミックに提案するプラットホームである.本稿では,本システム及びシステムでマッチングを行う外部連携システムについて紹介する.

Key Words 発達障害,特別支援,個別教育支援システム,ICF,ICF-CY,ソーシャルスキル

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まえがき

近年,AD/HD(注意欠如/多動性障害)(1),ASD(自閉スペクトラム症)(2),(3),LD(学習障害)(4)やSLD(極限性学習症),DCD(発達性協調運動障害)(5),(6)などの発達障害や強い個性を有する子供への特性に応じた教育・支援が課題となっており,学習面や生活面において各児童の特性に応じた特別な教育・支援が必要とされている(7).我が国においても,このような児童が通常学級の中に6.3%ほど存在すると言われており(8),発達障害による社会との障壁や「困り感」が原因で二次障害としてうつなどの心身症を生じたり,いじめ・不登校につながったりするなど深刻な問題がある.このような児童に対して,周囲の大人が「気づき」(7),(9),(10),理解すること(11),学校・家庭・専門機関が連携し協働して支援していくこと,特に保護者と教員で「困り感」(12)を共有し密に連携を取ることが重要であり,早期の対処・個別ニーズに合わせた支援が必要とされている.

しかし,百人百様の異なる状態像を持つ子供たちに対して,個別の特徴に応じた支援は不十分な面が多い.個々の多様性に応じた支援を行うためには,最も長い時間を過ごす学校と家庭の行動を日々観察し,保護者と教員が密に連携し,個人の性質をよく把握することが重要であるが,多忙な現実社会では密な連携は難しく,問題が起ってからの対処的な支援がメインとなる.発達障害児者は,定型発達児者とは行動や感情が異なる場合が多く,教員が個人の行動パターンや性質を理解・把握することが重要であり,そのためには履歴を引き継ぐことが必要であるが,現実には詳細な行動パターンが理解できるような履歴の作成は教員の多忙さから難しい.個別の教育支援計画及び指導計画(文部科学省通知)(13)の作成も教員にとって負担感が大きいのが現状である.2016年4月1日から「障害者差別解消法」が施行された.この中にある「合理的配慮」を有効に生かすためには,支援や支援方法が存在することと,支援の対象者とのマッチングが必要となるが,現状,学校と家庭,専門機関の支援者が情報共有のため話し合う場や時間が圧倒的に不足しており,適した支援にたどり着けていない状態の児童生徒が多い現状がうかがえる.対話の時間を持てたと感じているケースでも,正しく情報共有できているとは限らない.コミュニケーションしているようで部分的な理解にとどまっていたり,両者が全く正反対のことを考えていたりすることがある.そのような状態………

福井大学学術研究院工学系部門,福井市

Graduate School of Engineering, University of Fukui, Fukui-shi,910-8507 Japan

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福井工業高等専門学校電子情報工学科,鯖江市

National Institute of Technology, Fukui College, Sabae-shi, 916-8507 Japan