解 説
教育分野でのXRの活用と今後の展望

小特集
教育分野におけるICT 利活用の実例と展望

解 説

教育分野でのXRの活用と今後の展望

吉満貴志 Takashi Yoshimitsu ソフトアンドニュー株式会社

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はじめに

かつて, 台湾のディジタル担当大臣であるオードリー・タン氏は,IT(Information Technology,情報技術)とディジタルの違いについて「IT は機械と機械をつなぐものであり, ディジタルは人と人をつなぐもの」であると語った.

それでは,ICT(Information and CommunicationTechnology,情報通信技術)とは, またどのような違いがあるのか.IT に「Communication(コミュニケーション)」を加えたICT は,特にインターネットのコミュニケーションツール(メール,チャット,SNS など)を介することにより「人と機械をつなぐもの,人と人とを(より密接に,より現実に近く)つなぐもの」と考えることもできよう.

現在,日本の教育分野でもICT 活用が進んでいる.教育でのICT 活用は,ディジタル教科書(教材)の使用やプログラミング教育だけにとどまらない.ICT の活用は,遠隔授業・オンライン授業を可能にする一方,国家プロジェクト「GIGA(Global and Innovation Gatewayfor All)スクール構想」が目指す「特別な支援を必要とする子供を含め,子供たち一人一人に個別最適化された教育の実現」(1)に向けても大きな力になる.従来の教育にはない,高い利便性や学習効果等をもたらす点に,教育でのICT 活用のメリットがある.また, それらのメリットには,教える先生の業務の軽減と効率化等にも役立つ点が含まれる必要がある.更に,教育分野において,ICT の一つであり,先端技術であるXR(AR/VR/MR 等)やAI を有効活用することは,教育効果をより高めることにつながる.

本稿では,まず,日本の教育分野におけるICT 利用の現状とICT 活用への今後の課題,また,新時代に求められる能力と教育について述べる.その上で,今後活用が期待される先端技術のうち,XR について,教育分野での活用のメリットと活用例,並びに今後の展望について解説する.

今後,日本の教育分野において,XR 技術の導入が検討される際,少しでも参考になれば幸いである.

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日本の教育分野におけるICT 利用の現状とICT 活用への今後の課題

本章では,日本の教育分野のICT 利用の現状に目を向けてみる.その際,私たちが直面する現在の社会状況にも目を向ける.また,特に海外との比較によって,日本のICT 利用の現状や特徴がより明らかになってくる.それらを踏まえた上で,教育分野でのICT 活用の今後の課題について考える.

2.1 日本の教育分野のICT 利用の現状

図1 が示すように,コロナ禍前の2018 年に実施されたOECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA: Programme for International StudentAssessment 2018)によると,日本の教育分野のICT利用の特徴として分かるのは「(学校の内外で)学習におけるICT 利用率の低さ」「ICT 利用は学習より主にゲーム」などである.特に,日本は学校の授業(国語,数学,理科)でのICT 利用時間が短く,OECD 加盟国中最下位であった(2).

加えて,現在,私たちが直面する社会状況としては,新型コロナウイルスの世界的なまん延が挙げられる.私たちはその感染症対策として,以前とは異なる遠隔授業・オンライン授業や在宅勤務・テレワーク等の実施が求められるようになった.それと同時に,日本の義務教育課程においては,国家プロジェクト「GIGA スクール構想」が,当初の計画を前倒しして推進された.コロナ禍でも,子供たちの学びを止めないよう,遠隔授業・オンライン授業などを実施できるようにするためでもあっ………