巻末言

巻末言

学会の国際化について思う

通信ソサイエティ副会長 前田譲治Joji Maeda

通ソ副会長を仰せつかったところ,国際委員会の委員という役割が漏れなく付いてきた関係で,本会の国際化という課題について考えることになりました.およそ1 年の間,委員として感じてきたことを,ここにまとめてみたいと思います.

「国際」を広辞苑(第五版)で引くと,「(international)諸国家・諸国民に関係すること.」とあります.international は国と国との間,の意味ですから,global とは異なり,国という概念を基本に置いていることが分かります.各国が自らの立ち位置を確立し,ほかの国にそれぞれに固有の文化があることを認めることが前提としてあり,その上で他国との交流を行うのが「国際」の本義と言えます.

では,「学会の国際化」とは何を指すのでしょう?

本会の定款第4 条には,本会で行う事業が箇条書きされており,その第2 項に「前項の事業は,本邦および海外において行うものとする.」とあります.これが,本会における国際化の根拠と言えそうです.そこで,定款第4条記載の「事業」のうち「国際」に関係しそうなものを見ていきたいと思います.

ロ.講演会,討論会,講習会及び見学会等の開催

ハ.学術の調査研究

ヘ.学問,技術の奨励及び普及事業

国際会議の主催・共催等がこれらに当たります.また,最近始まった英語 Webinar もこれに当たるでしょう.海外セクションの活動もこれに含まれるでしょうし,シスターソサイエティの締結も,これらの活動を促す役を果たしていると思います.

ト.専門図書及び雑誌の刊行

英文論文誌の刊行がこれに当たります.

このように,学会としての「国際化」に関わる事業は既に数多く実施され,その規模も徐々に拡大しています.それぞれの事業は単発的で,学会全体というより,ソサイエティや研専などのサブセットによる活動であることは確かです.しかし,学会活動のほとんど全てがそのような形態であることを考えれば,単発的であることはむしろ自然であるように思います.

問題は,これらの事業の継続が難しくなっていることにあると感じています.

2000 年代の初頭,通ソでは Global News Letter を刊行し,研専の活動や国際会議の報告を英文で発信してきました.ところが,媒体が紙から電子形式へと移行する流れの中でWeb 化したところ,本来のターゲットである海外会員からのアクセスが極めて少ないことが判明しました.編集に要するマンパワーも不足しており,休刊のやむなきに至りました.

国際化の事業を行っても,それを受け入れる相手は限定的です.更に,ここ数年で海外会員の数は急減していて,対象は広がるどころか狭まっています.「何のためにやっているのか?」と自問せざるを得ないことが悩みの種です.

一方でこの問いは,「本会の国際化」の姿を考え直すヒントになるかもしれません.IEEE 等の国際的大ネットワークが存在している中で,日本オリジナルな学会は世界の中でどのような立場を得られるのか? なかなか難しい問題ですが,海外に「コアなファンを作る」ことが一つの解になるかもしれません.多くの海外会員に,本会に所属していてよかったと思ってもらえるようにすることですが,そのためにはまず,本会をよく知ってもらうことから始める必要がありそうです.

従前から,会誌の一部を英語に翻訳してWeb で閲覧できるようにしていましたが,2021 年度には,これを印刷して冊子体とし,海外会員に発送しました.また,将来の海外会員候補である日本への留学生を対象に留学生ワークショップを開催し,留学生同士,更には日本人会員との交流の場を作りました.またその一部を,海外セクション各位が会するAll sections meeting と併催することで,留学生と本会海外セクションとの間をつなぐイベントにしました.

このような施策が実を結ぶまでには時間が必要でしょう.目先の変化に一喜一憂せず,また,時代に合った形に新陳代謝させていく勇気を持ちながら,海外向けのサービスを根気よく続けていくことが,本会に求められているように思います.会員の皆様には,引き続き御支援と御助力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.

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