-衛星設計コンテスト参加記-
超小形人工衛星でワイヤレス電力伝送を行おう

-衛星設計コンテスト参加記-

超小形人工衛星で
ワイヤレス電力伝送を行おう

大阪公立大学 上田滉也 Koya Ueda

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はじめに

「衛星設計コンテスト」(1)は,日本機械学会,日本航空宇宙学会,電子情報通信学会,地球電磁気・地球惑星圏学会,日本天文学会,宇宙航空研究開発機構,宇宙科学振興会,日本宇宙フォーラム,日本ロケット協会という9 学会・機関が主催する教育プログラムであり,高校生から大学院生までの学生が設計した人工衛星の独創性や完成度を競うコンテストである.

筆者らは本コンテストにおいて,「磁界共鳴方式を用いたワイヤレス電力伝送の宇宙実証」をミッションとする超小形人工衛星を設計し,「電子情報通信学会賞」を頂いた(図1).本記事では,コンテストへの参加報告として,設計したミッションの内容や苦労した点について紹介する.

図1

図1 コンテストで頂いた表彰状とトロフィー

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応募の動機とミッション内容

コンテストは,ミッションアイデアを含めた衛星システム全体を設計する「設計の部」,衛星で行うミッションの独創性を競う「アイデアの部」,高校生以下の学生が競う「ジュニアの部」に分かれている.筆者らは学生主体で超小形人工衛星を開発する大阪公立大学の「小型宇宙機システム研究センター(SSSRC)」に所属しており,衛星開発のノウハウを蓄積するべく「設計の部」に参加した.

筆者らが設計した衛星「Wi SAT」は,「磁界共鳴方式によるワイヤレス電力伝送が衛星システム上で実現できるかを検証すること」をそのミッションとしている.Wi SAT の外観を図2 に示す.ワイヤレス電力伝送に挑んだ理由は,SSSRC・室蘭工業大学が設計し,2021 年に打ち上げられた超小形人工衛星「ひろがり」(2)の組立ての際に,電力供給用のハーネスの取回しに非常に苦労した経験があり,無線で電力伝送ができれば衛星の組立てが行いやすくなるとともに,設計の自由度も向上するのではないかと思ったためである.

磁界共鳴方式とは,共振周波数 fr を一致させた送電側回路と受電側回路において,周波数 fr の交流電力を送信側回路に供給すると送電・受電コイル間で磁束が強く共有されることを利用し,受電側回路に高効率に電力を伝送する方式である.本方式は,適切な制御回路を併用することで送電・受電コイルの位置関係が変化した場合であっても磁束の共有を維持することが可能であり,スマートフォンへの充電などで盛んに利用されている「電磁誘導方式」より長距離のワイヤレス電力伝送が実現できるというメリットがある.

Wi SAT では送電・受電コイルの距離を0〜8 cmの間で変化させた,若しくは送電・受電コイルがなす角度を0〜30° の間で変化させた上でワイヤレス電力伝送を行い,電力伝送中の衛星の状態や送電効率を監視し,宇宙での本方式によるワイヤレス電力伝送の実現可能性を検証することを目指した.………

図2

図2 設計した「Wi SAT」
(大きさは牛乳パック程度10 × 10 × 20 cm)