開発物語
Wolfram│Alpha 開発物語

開発物語

Wolfram│Alpha 開発物語

ウルフラムリサーチ 
今藤(安井)紀子 Noriko Imafuji Yasui

1. はじめに

1.1 Wolfram|Alpha とは

Wolfram|Alpha( 以降,WolframAlpha と表記する)は,ユーザが入力した「事実についての」質問に対して構造化されたデータを使って答えを計算し知識を返す,質問応答システムであり,2009 年Web サイト上のサービスとしてリリースされた.あらゆる事柄に対して,現在分かり得る,基本的なことからリサーチレベルのものまで,全ての情報・知識を計算し回答として返すことをゴールとしており,Computational Knowledge Engine(計算知識エンジン)と呼ばれている.リリース当初は,「検索エンジンのようなもの?」という印象を与えていたが,検索エンジンは入力されたキーワードと関連の高いページを探し出して一覧表示してくれるのに対し,WolframAlpha は自然言語で与えられた質問を理解し一つの回答を返す,という点で異なる.リリースから13 年ほどの間に,米国では学生の学習サポートツールとして一般的に使われるようになり,また,エンジンとしてアップル社のsiri などにも使われている.リリース当初の「Mathematica のWolframがリリースしたサービス」という世間の印象は,現在では「WolframAlpha を開発しているWolframが Mathematica という数値計算ソフトも出しているらしい」といったような認識になってきているようである.

1.2 WolframAlpha の動作の具体例

WolframAlpha に入力される質問は,リリース当初から現在に至るまで数学に関する質問が最も多い.実際,基本的な数学から,大学・大学院レベルの理工系問題までMathematica がサポートする範囲の数学はおおむねWolframAlpha でもサポートされている.微分・積分計算などの定番のクエリ以外では例えば次のような利用例がある.

"probability 2 people born in same month"(2人が同じ月に生まれた確率)

"Runge-Kutta method, dy/dx = −2xy, y(0) =2, from 1 to 3, h = .25"(ルンゲ・クッタ法でdy/dx= −2xy, y(0) = 2 を1 から3 まで解く, h = .25)

"CA 3-color, range 1, rule 4594122302107"(セルオートマトン3色範囲 1, ルール 4594122302107)(図1).

数学系以外のクエリでは,単位変換("華氏300度は摂氏何度?"など)や月の満ち欠けに関する質問("次の満月はいつ?")などがポピュラーである.以下に少々マイナーな例を幾つか紹介したい.

"running 30 min, 6 min/mi, 28yo female, 5’6",135lb "(28 歳女性,5'6"(約170 cm),135 lb(約60 kg),6 min/mi( 約3.7 分/km) で30 分ランニング):消費カロリー,平均心拍数,平均的な歩数などの情報結果が得られる.

"moving from Champaign IL to San FranciscoCA salary $42,500" (年収 $42,500 でイリノイ・シャンペーンからカルフォルニア・サンフランシス………

図1 WolframAlpha 利用例1(セルオートマトン)

図1 WolframAlpha 利用例1(セルオートマトン)