解説論文 
スマートシティの普及・発展を支える都市OS

小特集
スーパシティ/スマートシティ実現の基盤となるICT技術

スマートシティの普及・発展を支える都市OS

City OS Supporting the Spread and Development of Smart City

藤田範人 Norihito Fujita

藤田健司 Kenji Fujita

田代 統 Osamu Tashiro

Summery スマートシティにおいてデータの連携・利活用を効率的に行うための共通基盤である「都市OS」について解説する.昨今,スマートシティ設計・構築の共通指針としてリファレンスアーキテクチャの活用が広がりつつあるが,その中で都市OS は都市内外のデータを活用した様々な都市サービスを実現するための中核要素となる.本稿では,筆者らが2019 年度に構築したリファレンスアーキテクチャにおいて都市OS に求められる技術要件や,スーパシティなど将来の都市サービスの発展に向けた関連取組みについて述べる.更に具体例として,NEC が提供する都市OS とその技術的特徴を紹介するとともに,都市OS を活用した幾つかの事例についても取り上げる.

Key Words スマートシティ, 都市OS, データ連携, Society 5.0

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はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに,あらゆる分野でDX(Digital Transformation)の加速が求められており,自治体・エリアが提供する都市サービスにおいても,それは例外ではない.都市のDX はスマートシティとして2010 年前後から世界中で取り組まれており,2030 年までに4 兆ドルを超える市場規模が予測されている(1).また,国内でも2020 年5 月にスマートシティの実現で必要となる規制改革や分野間データ連携,データを活用した複数の先端的サービス普及を加速するため,国家戦略特別区域法一部改正法(スーパシティ法案)が可決され,その実現が期待されている(2).

スマートシティの実現においては,都市サービスに必要となるデータの連携・利活用をいかに効率的に行うかが鍵となる.このデータ連携・利活用の機能を個別のサービスごとに実装するのではなく,コンピュータのOS のように共通基盤として用意し,あらゆるサービスをその上に実現できるようにするものが「都市OS(City OS: Operating System)」である.都市OS の活用はオープンデータの連携を中心に昨今広がりつつあるが,スーパシティの実現など今後の都市サービスの高度化に向けて,個人データの取り扱いなど,更なるルール作りや技術発展が求められる面もある.

本稿では,海外の都市OS に関する取組みの紹介の後,国内における都市OS 関連プロジェクトの紹介を通じて,都市OS に求められる要件や機能について解説する.また,都市OS の先端事例の一つとして,NEC が提供する都市OS について,実現技術とともに幾つかの活用事例を紹介する.

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海外の取組み

スマートシティにおけるデータ連携・利活用のための共通基盤化の取組みは,欧州を中心に海外で先行しており,これらの共通基盤も都市OS の一種と言える.以下に代表的な取組みを紹介する.

2.1 FIWARE

FIWARE(3) は欧州連合(EU)の次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)で開発・実装された,多様なデータの連携のための基盤ソフトウェアである.FIWARE はGeneric Enabler(GE)と呼ばれるソフトウェアモジュールの集合体であり,各GE の実装はオープンソース・ソフトウェアとして公開されている.GE 間接続のAPI やGE が扱うデータモデルは,NGSI(Next GenerationService Interfaces)という標準規格により共通化され,拡張容易性や相互運用性の高いアーキテクチャとなっている(3).これらの特徴から,欧州を中心とした多数の都市や企業でスマートシティを実現するシステムに活用されている.また,インド政府が推進しているデータ利活用アーキテクチャであるIndia Urban Data Exchange(IUDX) でも,FIWARE Foundation が開発した標準データ連携仕………

日本電気株式会社,東京都

NEC Corporation, Tokyo, 108-8001 Japan