解説論文 
IoT時代におけるスマートシティ開発の取組みと現状の課題

小特集
スーパシティ/スマートシティ実現の基盤となるICT技術

IoT時代におけるスマートシティ開発の取組みと現状の課題

Initiatives and Current Issues of Smart City Development in the IoT Era

東 博暢 Hironobu Azuma

Summery 我が国では第四次産業革命への対応,ディジタルトランスフォーメーション(DX),スーパシティ/スマートシティ等,様々な取組みが官民挙げて政策的に進められている.パンデミック宣言以降,世界的に人々のライフスタイルや経済活動の変革が余儀なくされ,ますます当該取組みを加速せざるを得ない状況を迎えている.言わば,パンデミックショックによりあらゆる分野でパラダイムシフトが起こりつつある.また,政府はディジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることを任務とするデジタル庁を2021(令和3)年9 月1 日に設置し,地方活性化の切り札として「デジタル田園都市国家構想」を掲げ,「地方」からディジタル及びスマートシティの実装を進めている.本稿では,現在進んでいる我が国のスマートシティ構想を概観しつつ,現状の課題について述べる.

Key Words スマートシティ,Society 5.0,都市OS(データ連携基盤),Well-being(ウェルビーイング),API,アーキテクト,ファイナンススキーム,EBPM,持続可能性

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スマートシティ政策の潮流

スマートシティという言葉自体は古くから存在しており,我が国ではこれまでは「エネルギー」や「交通」といった「機能」に着目した分野最適化の議論が主であった.現在,スマートシティ政策は,「市民(利用者)」中心に政策体系を組み替え,そこに「ディジタルトランスフォーメーション(DX)」と「グリーントランスフォーメーション(GX)」の要素が加わった.

本章では,世界のデータポリシーとスマートシティ政策の潮流について概観する(図1).1995 年にインターネットが商業化して以降,ICT 技術,特に伝送速度の進展とともに,ソーシャル化,モバイル化,自律化が進み,第四次産業革命と言われるまでに産業構造が変革している.

1970〜80 年には,各国で個人情報保護やプライバシーに関わる法制化が進んだが,1995 年以降,データ政策に大きな動きが生まれた.2000 年に入ると「越境データ問題」について世界各国が制度枠組みの検討を開始,加えて自国のデータポリシーの在り方についても随時,法改正を進めながら検討されている.2010 年には,各国で「オープンデータ」が推進され,IT 技術を活用した地域課題の解決を目指す非営利団体「Code for」などの組織が立ち上がり,市民が技術を活用した地域や身近な困り事を解決するシビックテックが勃興する.IoT センサやクラウドが廉価になり,街からの社会インフラのデータが,モバイル化により市民からデータが集積するようになった.データの民主化が起こりつつある2015 年前後に,これまでの政策が「スマートシティ政策」に統合され,現在に至っている.

2015 年に米国ではSmart City Initiative を,欧州ではDigital Single Market(DSM)を発表し,本格的にディジタル・スマートシティ政策の推進を開始した.中国では2013 年に一帯一路,2015 年にディジタルシルクロード構想を発表し,インドでは2009 年から開始したAdhaar Project をベースとし,2016 年にはIndia Stack が開始した.現在,ディジタル・スマートシティ分野において国際競争が加速している.一方で,国際協調も重要とされており,2019 年6 月に大阪で開催されたG20(20か国・地域首脳会議)「大阪首脳宣言」において,イノベーションを促進し,強固な世界経済の成長を醸成するため,スマートシティ開発に向けた都市間のネットワーク化と経験共有を奨励することが提言された.同10 月に日本政府と世界経済フォーラムが共同で「G20 Global Smart Cities Alliance(GSCA)」を設立した.その後,世界はパンデミックショックを経験することとなるが,引き続きパンデミック対策を含め各国でスマートシティに関わる取組みが共有されている.………

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