私の研究者歴 My Frontier Journey
ネットワークアーキテクトとしてーデバイスからネットワークまでー
佐藤健一(名誉員:フェロー)
1978東大大学院電子工学専門課程修士課程了,同年日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所入所.1985 British Telecom Research Laboratories交換研究員,1999 NTT未来ねっと研究所フォトニックトランスポートネットワーク研究部部長,2004名大教授,2016本会会長.2016から超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会(PIF)会長,2019名大名誉教授,独立行政法人産業技術総合研究所招聘研究員,現在に至る.工博.NTT R&Dフェロー.IEEEフェロー.
1. 研究事始め
執筆依頼にこの記事の目的は「若者へのメッセージ」とあります.私の研究は物性,デバイス,システム,ネットワーク並びにアーキテクチャと広い分野にわたっています.このような研究歴を持つ方はそれほど多くはないと思いますので,詳細な研究内容は論文などを参考にして頂くこととして,本稿ではこれまでの研究生活の中で感じたことを中心に述べたいと思います.
大学では物性に興味を持ち,東大大学院修士課程では青木昌治先生の下で結晶成長と光物性の研究に従事しました.1970 年代当時の青木研究室では,Ⅲ -V 族のGaN とⅡ - Ⅵ族を主体とする研究が進められており,私にはⅡ - Ⅵ族のZnS の結晶成長と光物性に関する研究課題が与えられました.当時は青色発光ダイオードを目指して各所で研究が進められていましたが,ノーベル賞を受賞された赤崎先生,天野先生らが高品質のGaN 結晶成長(1986 年)とPN 接合(1989 年)に成功する10 年ほど前のことです.青色発光ダイオードの高輝度化は中村博士らにより1993 年になされました.
青木先生指導の下で試みたTe を溶媒とする結晶成長により得られたZnS 単結晶は,室温で青色の明るいフォトルミネッセンスを示します.これはTeの等電子トラップに束縛されたエキシトンによる発光であることを実験により明らかにしました(1).この結晶を用いた発光ダイオードの写真を図1(a)に発光スペクトルを図1(b)に示します(2).エレクトロルミネッセンスは残念ながら室温では白色に近い発光で輝度も低いものでした(2).
青木研究室では,カンタル線をセラミックス管に巻き付けて電気炉を自作するところから始まります.実験に必要な器具の作成や結晶成長の経験は,各種のデバイスの特徴を理解する勘を養う上で,その後とても役立ちました.研究者として歩み始めた最初の分野,物性・デバイスに関しては今でも強い興味と親近感を持ち続けています.
2. NTT横須賀電気通信研究所に入所して
修士課程修了後は日本電信電話公社(現NTT)に就職することにしました.当時企業の研究所は大学の研究室と比較して予算・設備ともにはるかに充実していたのが理由です.NTT では,それまでの物性・デバイス分野ではなく,システム関連の研究を希望し横須賀電気通信研究所に配属されました.これは,何かをやり出すとそれにのめり込む自分の性格を考え,そのままデバイス研究を中心にするとそれに没頭してしまい,物事を広く見る力を養うための経験を十分に積めないのではないか,と考えたた