解説論文 
人工知能を学べる中高生向けPythonプログラミング教室

小特集
未来を担う通信技術者・研究者のための自由研究特集(ジュニア会員特集)

人工知能を学べる中高生向けPythonプログラミング教室

Python Programming Class for Junior and Senior High School Students Who can Learn Artificial Intelligence

渡邊裕司 Yuji Watanabe

Summery 本稿では,筆者らが2018 年度から実施している中高生向けPython プログラミング教室の内容を紹介するとともに,プログラミング初等教育を支援する研究への展開について説明する.高校生向け教室は日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」として,中学生向けは名古屋少年少女発明クラブの「中学生プログラミング教室」として,主に夏休みの1,2 日間に開催されるイベントである.単発の教室ではあるものの,プログラミングの基礎から機械学習を用いた手書き数字の認識までを学ぶ濃密な内容である.プログラミング環境として,最初は大学の実習室にてAnaconda ディストリビューションのJupyter Notebook を使用した.その後,受講後にもプログラミングの続きを容易にできて,コロナ禍でも遠隔開催できるように,Google のColaboratory を使用することに変更した.この変更により,Google ドライブ上に保存されるプログラムコードの共有が可能となり,遠隔でもプログラムの指導ができ,受講者のコードの収集も容易になった.そこで,収集した受講者のコードを分析した結果,受講生が幾つかのクラスタに分かれることが分かった.今後はプログラミング初等教育において教え方を支援する研究への展開を目指す.

Key Words プログラミング教育,人工知能,Python,中高生

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はじめに

筆者が小中高生向けのプログラミング教育に関心を持った背景には,2020 年度から順次施行されている新学習指導要領(1)がある.本要領では,小学校が2020 年度から,中学校が2021 年度から,高校が2022 年度からプログラミング教育(プログラミング的思考)が必修化される.必修化前から文部科学省や未来の学びコンソーシアム(令和2 年12 月25 日に終了)(2)やメディアなどが周知を図り,プログラミング教育の文字を多く目にするようになっていた.また,文科省が小学校プログラミング教育に関する指導案集(3)を公開したり,教育委員会などが研修会を実施したりして指導する教員の育成に努め,プログラミング授業を既に実施している小学校もあった.

しかし,2017 年頃に筆者が地元小学校の校長に話を聞いたところ,必要性を理解しているもののどのように手をつけてよいのか分からず,準備は全くできていないとのことであった.恐らく多くの学校でも当時は同じ状況であったと予想される.しかも,2020 年度から必修化された小学校では,新型コロナウイルス感染症対策のため授業時間数が減らされて正課授業では何もできていなかったり,外部講師による課外のクラブ活動での実施であったり,実際の学校現場における教員らから戸惑いの声を聞くことが多い.GIGA スクール構想(4)で学校のICT 環境整備が進められる中,初等教育においてもプログラミングを教えられる指導者の育成とその支援は急務である.

一方,プログラミング教育を商機と捉えて,世間ではイベントでのプログラミングブースやプログラミング教室の開設が多く見られる.実際に多くの子供たちが集まったり通ったりするようになっている.しかし,扱う内容のほとんどは,関心の集めやすいゲームやロボットのプログラミングである.そこで,大学教員ならではの視点として,筆者の専門分野でもある人工知能(AI: Artificial Intelligence)を扱うプログラミング教室を開催しようとの着想に至った.

AI にはこれまで3 回のブームがあった.1950〜60 年代の第一次ブームでは,1956 年のダートマス会議でのAI の命名とともに,パズルや定理証明などの探索や推論で成功を収めた.1980 年代の第二次ブームでは,知識表現の研究が進み,多数のエキスパートシステム(専門分野の知識を取り込み推論するプログラム)が開発された.現在の第三次ブームは,深層学習(ディープラーニング)による………

名古屋市立大学,名古屋市

Nagoya City University,Nagoya-shi,467-8501 Japan