解 説
高校生に量子暗号の原理を体得してもらう方法

小特集
未来を担う通信技術者・研究者のための自由研究特集(ジュニア会員特集)

解 説

高校生に量子暗号の原理を体得してもらう方法

山下 茂 Shigeru Yamashita 立命館大学

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はじめに

最近はテレビのニュースでも時々取り上げられるようになっているので,「量子計算」や「量子暗号」という単語を聞いたことがあるかもしれません.「量子状態」という普段の生活では感じることができない「不思議」な状態を利用した,今のコンピュータや通信の方法とは全く異なる「計算」や「通信」の方式です.

前提知識がない方が量子計算とは何かを1 日で理解するのはほぼ不可能でしょう.しかし,「量子暗号」なら,理科系の高校生が1 日で理解可能かもしれないと考えて,高校生に「量子暗号」を体得してもらうイベントを日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」というプログラムの支援で行った経験があります.そのイベントに参加した高校生の多くの方は,前提知識がなくても半日ぐらいで「量子暗号」の概略は理解できたようでした.

上記のイベントの内容を本稿で紹介させて頂くことになりました.紙面だけの説明では難しいかもしれませんが,意欲ある高校生の方が自力で概略だけでも理解されることを期待しています.また,同種のイベントを検討されている方に何らかの御参考になれば幸いです.

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量子状態とは?

まず,量子状態とは何かを何となく理解するために,レーザポインタと偏光板を用意して下さい.偏光板はインターネットで数百円で購入できます.レーザポインタは高校生のお小遣いでは厳しいかもしれませんので,学校などにあるのを借りてもらえればと思います.

物理などで習いますが,光は進行方向に垂直な方向に振動しながら進む波と考えられます.また,偏光板は図1 に示すように,人の目には見えないスリットが同じ方向に並んでいるものと考えられます.図1 の左側に示すように,レーザポインタからは,様々な方向に振動する複数の光が照射されています.レーザポインタからの光を1 枚の偏光板に通せば,図1 のように偏光板のスリットと同じ方向に振動している光しか通りません.暗いところでレーザポインタの光を壁に直接照射した場合と,間に偏光板1 枚を入れた場合に壁に当たる光の量を比べると,確かに偏光板を通ると光の量が減少していることが分かるはずです.

次に,図2 のように偏光板2 枚をスリットの向きがちょうど90 度異なるようにして,光を通すとどうなるでしょうか? 最初の偏光板のスリットと平行な振動を………

図1 偏光板1 枚に光を通す様子

図1 偏光板1 枚に光を通す様子