解説論文
手軽に手に入る部品で作って楽しむ光トランシーバ
小特集
未来を担う通信技術者・研究者のための自由研究特集(ジュニア会員特集)
Summery たくさんの情報を遠くまで運べる光通信技術の進歩により,スマートフォンなどで便利に情報をやりとりできる時代です.光通信はどのように行われているのか,そういった疑問に答えるために,発光ダイオードやレーザダイオードを光らせて,光に音を乗せて送ってみます.本稿では,手軽に入手できる光部品,電子部品で電子回路を組み立て作る光送信機と光受信機を紹介します.光無線通信,可視光通信,光ファイバ通信を体感できます.現実の光通信で使われている技術の系譜について文献等を引用しながら解説します.
Key Words 光,通信,光無線,光ファイバ,レーザ,発光ダイオード
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はじめに
スマートフォンやパソコンで日常生活が便利になりました.その通信機器からの情報信号は,どのように世界中を飛び交っているのでしょう.家のWi-Fi の通信情報は,家から電話局までの光ファイバを伝わって世界中に行くことでしょう.スマートフォンの信号は,まずは電波に乗って近くの電柱の基地局に入り,基地局からは光ファイバを伝わっていきます.インターネットで世界中の情報にアクセスできるのは,光ファイバによる海底ケーブル通信システムが普及したためです.このように読者の皆さんが情報社会の中で便利に生活している背景には光通信技術の進歩があります.
便利さを享受していながらも,光通信のしくみを身近に感じることはほとんどありません.家まで光ファイバが引かれているといっても,光ファイバの中を通ってきた光を見られるわけではありませんし,電柱の上のケーブルは光ファイバも電力線も同じ黒色で,区別がつかないかもしれません.光で通信するってどういうことかな,と考えてみたことはありますか? 身近なところでは,テレビなどのリモコンは光通信です.赤外線という光を使って,リモコンのボタンに割り当てられた信号が光に乗って発信されています.リモコンのケースを開けて分解してみても,黒い樹脂パッケージの部品があるだけでは,ケースの中で何が起きているのか分からないと思います.
このような若い人を取り巻く状況に鑑みて,筆者らは平成30 年から「ひらめき☆ときめきサイエンス 光トランシーバを作ってみよう」という高校生向けの実習イベントを実施しています(1).ちょうど山形県内の幾つかの公立高校に,「探求型学習」に重点を置く「探求科」(理数探究科,国際探究科,普通科探究コース)ができたタイミングで,毎年県内の高校生から定員以上の参加申し込みがあります.このイベントの内容は,参加者が自分で簡単な電子回路を組み立てて(2)〜(4),光送信機と光受信機を作り(5)〜(7),それを使った実験を通じて光通信を体感し,解説を聞いた上で最先端の通信方式研究との関連を学びます.元々は山形大学工学部技術部のイベント「おとなのものづくり 身近な技術の体験塾 発光ダイオードで光通信に挑戦!」で大人向けに行っていたものを,高校生向けにアレンジして構成しています.
本稿では,この光送信機と光受信機を皆さんに紹介します(図1).この小特集の趣旨に配慮し,学術的な解説よりも作製で困らないように意識して書きました.自分で作ったものであれば,電子回路の具体的な動作は分からなくても,光通信のしくみが何となくでも実感できるのではないでしょうか.若い皆さんには,書物による学びも大事ですが,実体験が何より大切です.そのために,本稿の後半では光送受信機を使った幾つかの実験実習も紹介しています.
ここで使う電子部品のほとんどは東京・秋葉原の大手パーツショップの通信販売で手に入れたもので
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山形大学工学部,米沢市
Yamagata University, Yonezawa-shi, 992-8510