1. 設立の背景

 光ファイバによる広帯域通信サービスの提供は、家庭やオフィスでのコミュニケーション環境を強化し、スマートフォンに代表されるモバイル通信の普及と高度化は、人々のライフスタイルに大きな変革をもたらせている。通信サービスは、インターネットの浸透と共に急速に変容し、その利用シーンを含めて多様化の一途を辿っている。

こうした多様化が進む中、通信サービスに対する利便性や信頼性、経済性に対する要求は依然として高く、通信インフラの効率的な構築や運営を前提に、市場ニーズに則したタイムリーな対応が求められている。高品質な通信サービスを低コストで提供していくためには、効率的なインフラ構築から最新アプリケーションの開発まで各種先進技術が駆使されているが、こうした技術的な課題への取り組みだけでは十分な対応を図ることが難しくなりつつある。工学的な研究開発を進める上でも、通信サービスがどのように利用され、人々や社会にどのような影響を与えているかを併せて考えることの重要性が増してきている。

これまでにも、通信分野の工学的な研究開発において、ユーザ行動の前提や仮定は行われてきた。電話を中心とする時代には、通信に関わる行為の多様性は現在よりも限られており、新たな通信方式やシステム、アプリケーションの開発段階において想定すべきユーザ行動も限定的であった。そのため、比較的シンプルな前提や仮定により、ユーザ行動のモデル化が可能となり、結果としてモデルの汎用性が高まる場合も少なくなかった。しかし、インターネットの普及やモバイル通信の高度化は、こうしたユーザ行動の多様性を高め、モデルの複雑化と適用領域の縮退を招いた。現状、インフラ構築の効率化やアプリケーション性能の向上を目的として、最新技術の研究開発がしのぎを削る中、その効率や性能に大きく影響を与えるユーザ行動のより精緻な把握が重視されていることは言うまでもない。また、こうしたユーザ行動に関する検討は、最終的な工学的応用を意識することにより、より効率的かつ適切に成果を得るものとも考えられる。

人間の行動に関する研究は、生理的な側面や社会的な背景、個人の心理的な要素を含めて多様な分野にて進められており、その歴史も長い。通信に関わる行動についても様々な専門分野にて多くの研究が行われている。こうした多様な専門分野での研究成果を持ち寄り、通信に関わるユーザ行動を明らかにしていくことは、今後の通信技術の研究開発に大きく貢献すると共に、各専門分野の活動領域の拡張をもたらすものと期待される。しかし、現在、通信に関わるユーザ行動に特化し、更に、工学的な応用を目的とした切り口での一貫した研究活動の場は見受けられない。そこで、電子情報通信学会通信ソサイエティにおいて、通信分野の研究基盤として、人々の通信に関わる行動を取り上げ、様々な領域での専門家が意見交換を行うと共に、新たな研究領域の開拓を目指した時限研究専門委員会を立ち上げる。

通信ソサイエティ内の関連活動として、平成18年6月から平成20年5月まで、ブレイン・コミュニケーション時限研究専門委員会(Brain)が設立され、生体計測,特に脳機能計測を利用した情報通信機器の研究開発に関心のある工学、医学、心理学の専門家が集まり創造的な討論を展開できる場が提供された。更に、平成20年6月から平成22年3月に至り、脳と情報通信に関わる研究を拡げるために、名称をブレイン・バイオコミュニケーション時限研究専門委員会(BBC)として、感性工学や認知心理学の手法が取り入れられ、多面的な視点で技術の創生が検討された。こうした研究会では50名~100名規模の参加者が集まり、電子情報通信学会及び通信ソサイエティの会員増強にも通じる活動となった。また、既存の研究会とのコラボレーションにより、分野を越えた技術の横断的な活用が図られ、基礎研究者と工学応用研究者が相互に補完して境界領域の拡大が推し進められた。通信行動工学時限研究専門委員会は、対象分野や活動領域がBrain研及びBBC研とは異なるため、新たな研究専門委員会として設立され、異分野の専門家による意見交換や情報共有、各研究領域の拡張に関しては関連した過去の活動実績やノウハウを参考に進めてきた。その後、通信行動工学時限研究専門委員会の活動は、コミュニケーションクオリティ研究専門委員会の中の通信行動工学研究会運営委員会へと引き継がれ、活動を継続している。


2. 委員会の目的

通信行動工学 (CBE) 研究会運営委員会は、通信工学や心理学、脳科学等の様々な分野の専門家を委員として、急速に発展を遂げる通信サービスの進化に遅れることなく、人々の通信に関わる行動を様々な観点から捉え、通信分野への工学的な応用を目指す。研究対象は、通信サービスの利用形態や利用動機、ユーザにとってのサービス価値、サービスの創生と社会浸透など、通信に関わる人間の行動全般及びそれらと関連性の深い各種事象とする。様々な専門分野における最新の研究成果を持ち寄ることにより、異分野の活動を有機的かつ横断的に結びつけ、新たな発見や研究領域の開拓、実社会への応用などを促進する。本運営委員会は、コミュニケーションクオリティ研究専門委員会の中で、第2種研究会やワークショップ、予稿集発行、HP掲載などを通じて、通信行動及びその関連課題を扱う研究者のためのコミュニティとして活動する。


3. 担当する研究分野

主要研究分野 トピックス
通信行動の計測・観察 行動ログ計測、脳活動計測、生体情報計測、トラヒック計測、行動観察、アンケート調査、センサー、計測プラットフォーム
通信行動の分析・評価 認知過程分析、コミュニケーションの心身基盤、社会脳、脳情報解析、意識下/主観計測、社会ネットワーク構造、複雑系、サービス価値
通信行動の適応・制御 ユーザ行動モデル、トラヒックモデル、メンタルモデル、ユーザ指向型システム設計、ネットワーク/トラヒック制御、自己組織化/自律分散制御、ネットワーク科学
通信行動支援技術 感覚知覚利用インタフェース、BMI/BCI応用技術、臨場感コミュニケーション、コンテキストアウェアネス、リコメンデーション、コミュニティ活用、ソーシャルサポート、認証/ID管理
通信行動工学応用 ネットワークアプリケーション、次世代/新世代ネットワークサービス、センサーネットワーク、情報家電ネットワーク、ソーシャルネットワーク、通信放送融合、ロボット工学応用、安全・安心

▲PAGE TOP



Communication Behavior Engineering society.