バッテリー不要の通信デバイスを目指して

研究の概要

無線通信・バッテリー技術の進展によって、私たちはパソコンやスマートフォンを気軽に携帯するようになりました。その他にもイヤホン、スマートウォッチなどのウェアラブル機器を身につけたまま運動したり、スマート家電の設置場所を必要に応じて変更できるという点は有線通信には無い、無線通信の大きなメリットの一つです。しかし、その一方でこれらの無線化された機器には定期的なバッテリーの充電が必要であり、無線化により配置の制約から自由になることと引き換えに、稼働時間が有限になるという問題が新たに生じます。この問題に対し、太陽光や風力などの自然エネルギーで発電しながら通信したり、通信に利用される電波から電力を回収することで、条件次第では半永久的に動作する通信方法が考案されました。このような通信はエナジーハーベスティング通信と呼ばれ、身近な例としては、工事現場などで利用される太陽光発電パネルや、交通系ICカードや自動精算レジのための商品タグなどに利用されています。このエナジーハーベスティング通信について、ここでは代表的な研究について以下にご紹介します。

代表的な研究課題

環境波を用いたバックスキャッタ通信

エナジーハーベスティング通信は、ICカードリーダーなどの電力源となる装置を自分たちで用意する方式、環境中に存在する要素を電力源とする方式の2つに大別できます。
後者の中でもテレビやラジオ、Wi-Fiなど他の通信システムが使用している電波を利用して発電と通信を同時に行うものは特に環境波を用いたバックスキャッタ (Ambient Backscatter) 通信と呼ばれます。バックスキャッタ通信とは、送信側端末のアンテナで受け取った電波の反射・吸収を切り替えることで受信側に情報の1や0を送信する通信方法のことで、RFIDタグや交通系ICカードなどで利用されています。交通系ICカードではカードリーダーなどの電波を放出する電力源を別途用意する必要がありますが、Ambient Backscatterでは環境中に存在する他システムの電波を利用することで、理想的な条件下であれば通信端末のみで半永久的に通信することが可能になります。
ただし、これはあくまでも理想的な場合であり、Ambient Backscatterでは電波から得られる電力が極めて小さく、発電量が不安定であったり、通信可能距離が短い、送信可能なデータ量が少ないといった課題があり、本研究室では、より高速で高信頼な通信が可能となるような通信方式について研究しています。

参考文献
  1. Vincent Liu, Aaron Parks, Vamsi Talla, Shyamnath Gollakota, David Wetherall, and Joshua R. Smith, "Ambient backscatter: wireless communication out of thin air," in Proceedings of the ACM SIGCOMM 2013 conference on SIGCOMM (SIGCOMM '13), pp. 39-50, 2013, doi: https://doi.org/10.1145/2486001.2486015.
  2. 石橋 功至, "環境発電を用いた無線通信設計," 電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review, vol. 15, no. 1, pp. 16-24, 2021, doi: https://doi.org/10.1587/essfr.15.1_16.

今後の展望

本研究室では、無線通信システムやプロトコルの解析、誤り訂正符号や変調方式に関する研究に取り組んでいます。興味がありましたらお気軽にお声がけください。