リアルで快適な音環境の実現を目指して

研究の概要

私たちは普段様々な音に囲まれながら生活しています。この全周囲から届く音を私たちは左右の耳で聴き、脳内で処理し、音がどこから来たのか、何を言っているのかを瞬時に理解しています。この時に大きな役割を果たす聴覚は、人間の知覚情報処理の中で視覚と並んで重要な知覚情報処理過程の一つです。本研究室では、この人間の聴覚情報処理過程を明らかにして、その知見を生かした高度な音コミュニケーション技術の確立を目指しています。その際には、情報の受け手は人間であるということを念頭に、聞き手にとって聞きやすい情報、聞き手が欲する情報は何かということを意識した音情報提示技術を実現していきます。ここでは代表的な2つの研究について紹介します。

代表的な研究課題

聴覚の空間的注意に関する研究

無響室

みなさんはカクテルパーティー効果という現象を知っていますか?この現象は選択的両耳聴取とも呼ばれ、周囲が騒がしい状況でも私たちが聴きたい音を選択的に聴き取ることが出来る現象を指します。この現象は1953年に報告されて以降、様々な研究者によってそのメカニズムを明らかにする研究がなされてきましたが未だ分からないことが多く、現在でも非常にホットな研究テーマです。このメカニズムが明らかになれば、例えば難聴者の人によりよい聴こえを提供する補聴器の開発が可能になります。 本研究室では、カクテルパーティー効果に重要な役割を果たす聴覚の空間的注意に着目し、写真のような無響室(周囲からの音の反射がない部屋)に設置したスピーカアレイを用いてカクテルパーティー効果が生じる環境を模擬し、聴取者の注意の有無が音の聴こえにどのように影響を及ぼすかを調べ、カクテルパーティー効果のメカニズムの一端を明らかにしています。
参考文献
R. Teraoka, S. Sakamoto, Z.e Cui, Y. Suzuki, and S. Shioiri: Effects of listening task characteristics on auditory spatial attention in multi-source environment, Acoustical Science and Technology, 41 (in press)

球状マイクロホンアレイを用いた音空間収音・再生技術

球状マイクロホンアレイ

私たちは2つの耳に入力された音信号を用いて周囲の音環境を理解しています。例えば音源の位置が正面から左右にずれると、音源から耳までの距離が左右で異なることになります。これによって生じる左右耳の間の音の大きさの違い(強度差)や到達時間の違い(時間差)が音空間を知る大きな手掛かりになります。これは裏を返すと、左右の耳に入る音に対して予め強度差や時間差を持たせることで、立体的な音をヘッドホンなどで聴かせることが出来ることを意味します。 本研究室では、球状に配置した多数のマイクロホンを用いて、音の時間差・強度差などの情報をより詳細に録音し、遠隔地にいる人に対して音の方向感や距離感を忠実に再現することができる技術を研究しています。写真にあるように、実際に252chの球状マイクロホンアレイを構成し、より詳細な音空間情報を再生するプロトタイプシステムの開発を進めています。
参考文献
S. Sakamoto, S. Hongo, T. Okamoto, Y. Iwaya, and Y. Suzuki: Sound-space recording and binaural presentation system based on a 252-channel microphone array, Acoustical Science and Technology, 36(6), 516-526 (2015).

今後の展望

人間にとって豊かで快適な音空間の創出を目指して、聴覚情報処理の深い知識と高度なディジタル信号処理を駆使し、学際的研究に取り組んでいます。学部だけではなく大学院から参加の門戸も広く開かれています。音に興味のある方、音を使って何かやりたいと思っている方は是非お気軽にお声がけ下さい。