Massive Connect IoT のための無線通信ネットワークの研究

研究の概要

次世代の無線通信ネットワークは5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of things)がさらに進展し、交通・電力・医療・農業など、あらゆる分野における社会基盤として、より一層発展することが期待されています。ネットワークそのもののインテリジェンスが向上し、“Massive Connect IoT” の世界、つまり膨大な数のセンサや端末から得られたビックデータを解析することで新たな価値を創造するネットワークへ進化すると考えています。 私は、このような Massive Connect IoT 時代において、ますます重要となる多元接続技術の研究をしています。聖徳太子は10人の相談を同時に聴いて、それぞれについて的確に返答した、というのは誰もが幼い頃に聞いたお話です。その史実が本当はどうなのかはさておき、今後ますます情報量が増えてくる無線通信ネットワークで最も重要な技術は、まさにこの聖徳太子のようにたくさんの端末から同時に送られてくる信号を効率よく処理する能力であり、専門的には多元接続(Multiple Access)と呼ばれています。この多元接続に関して私が行っている研究から代表的なものを2つご紹介します。

代表的な研究課題

準天頂衛星システム(QZSS)を用いた安心・安全な安否確認サービス

2011年3月の東日本大震災では、携帯電話の基地局が東北地方の太平洋沿岸部を中心に津波や停電で使えなくなってしまいました。また、一部の通信会社では、基幹ルートの通信ケーブルが一部切断したため、東北と他地域との通信が数日にわたり困難になりました。一方、宇宙にある人工衛星が地上の自然災害で被災することはありません。そのため、日本政府は人工衛星「みちびき」を核として「日本版GPS」として整備されつつある準天頂衛星システム(QZSS)を携帯電話の基地局代わりとした、災害時にも活躍できる新しい安心・安全な安否確認サービス(Q-ANPI)の実用化を目指しています。私は、このQ-ANPIの高性能化を目指し、被災地のスマートフォンやカーナビからの送信時刻を制御することで大容量化を実現する技術についての研究を行っていて、1時間に300万人分以上の情報を集めることを目標にしています。近い将来、皆さんのスマートフォンやカーナビから約4万km離れた人工衛星に直接電波が届くようになり、どんな災害時であっても家族や友人の安否が必ず確認できる衛星通信システムを構築することを目指しています。
参考文献
S. Kameda, A. Taira, Y. Miyake, N. Suematsu, T. Takagi, and K. Tsubouchi: Evaluation of synchronized SS-CDMA for QZSS safety confirmation system, IEEE Trans. Veh. Technol., 68(5), 4846-4856 (2019).

超過密環境でも利用できるミリ波帯ボディーエリアネットワーク(WBAN)

Bluetoothを使ってスマートフォンとワイヤレスヘッドフォンをつなぎ、音楽や動画を楽しむ人が増えてきました。Bluetoothのように身体の周辺で一つの無線通信ネットワークを形成するボディーエリアネットワーク(WBAN)は、例えば健康管理のためのヘルスモニタリングやヘッドマウントディスプレイなど、様々な応用が考えられています。しかし、満員電車の車内のように混雑している環境では、他人のWBANとの電波干渉で使えなくなることも考えられます。私は、ミリ波帯と呼ばれる高い周波数の電波をWBANに使い、人間の体による遮蔽を利用していて電波干渉を減らすことで、超過密環境においても多くの人がWBANを使うことができる無線通信システムの研究をしています。
参考文献
秋元 浩平, 本良 瑞樹, 亀田 卓, 末松 憲治: 人体の減衰を考慮した複数ユーザ環境における60 GHz帯WBAN間干渉環境のシミュレーション評価, 信学論, J102-B(2), 44-51 (2019).

今後の展望

私が所属する東北大学 電気通信研究所 先端ワイヤレス通信技術研究室(末松・亀田研究室)では、地上系・衛星系を統合した高度情報ネットワークの実現を目指して、高信頼かつ電力消費の少ない先端ワイヤレス通信技術に関する研究を、信号処理回路・デバイス・実装技術から変復調・ネットワーク技術に至るまで、一貫して研究・開発を行っています。是非興味がありましたらご連絡ください。