IEICE ICT Pioneers シリーズ(ビデオアーカイブ無料配信)

電子情報通信学会がカバーしている ICTに関する様々な技術分野の中から、根幹となるテーマをひとつひとつ選び、それぞれの現在、過去、そして未来について第一人者の方からお話しいただいています。

2024年
No 開催月 講演内容 講演者(所属)
1 2024年1月

非地上系ネットワークの現状と将来像

【講演内容】
これまで通信ネットワークは、地上系を中心に二次元の拡大を続けていたが、近年、ハイスループット衛星、衛星コンステレーションさらには高高度プラットフォーム(HAPS)などの様々なプラットフォームの登場や衛星打ち上げ技術を含む衛星技術の向上によりより、静止軌道衛星、低軌道衛星、航空機など伝送容量や遅延が異なる三次元に広がる非地上系ネットワークネット(NTN)による新たな通信システムの構築と利用が進んでいる。また、Beyond 5Gや6Gの次世代通信システムでは、通信ネットワークを海、空、宇宙へとグローバルかつ三次元的に拡大するNTNが注目されており、国内外で検討や研究開発活動が進んでいる。NTNを適用する際には、無線技術、ディジタル化技術、光技術、ネットワーク技術が地上ネットワークとの性能差に起因する問題を解決することが重要となる。本発表では、NTNの現状と特徴に触れ、今後のネットワーク技術の研究開発について述べる。

辻 宏之
辻 宏之(国立研究開発法人情報通信研究機構)
2 2024年2月

サイバーセキュリティのすゝめ

【講演内容】
サイバー攻撃の脅威が日々増大する中、サイバーセキュリティ対応能力向上は国を挙げた喫緊の課題となっています。私は入社時の配属先が暗号の研究室だったことがきっかけでセキュリティの研究に足を踏み入れて以来、30年以上、基礎研究から新技術の設計開発、国際標準化、製品開発、人材育成、プロジェクト運営、研究開発のマネジメント等、さまざまな形でセキュリティ研究開発に携わってきています。時代とともに求められるセキュリティ人材も変わってきていますが、海外に比べて日本では人材不足が深刻です。国際的にも将来性、重要性、待遇の高いサイバーセキュリティ分野は、すでに専門をお持ちの方がセキュリティも強みに加える「プラス・セキュリティ人材」として、またこれから強み分野を切り拓いていこうという若手の方にもオススメです。でも一人では何から始めたらよいか...という方もおられるでしょう。本講演では、昨今のサイバーセキュリティを取り巻く状況を俯瞰しながら、国立研究開発法人情報通信研究機構で取り組んでいる研究開発や人材育成、産学官連携の取組について紹介します。サイバーセキュリティに興味をもつ皆さまの次のアクションの一助となれば幸いです。

盛合 志帆
盛合 志帆 (国立研究開発法人情報通信研究機構 執行役 サイバーセキュリティ研究所長)
3 2024年3月

Web3と街のデジタルツイン

【講演内容】
スマートシティのコンセプトが提唱されて10年以上が経過し、Society 5.0の一環として、その実現に向けての取り組みが進んでいる。スマートシティでは、IoTやクラウドコンピュ−ティングなどの情報通信技術を活用し、物理デバイスからの情報取得、物理デバイスの操作により、都市サービスの効率化を目指す。物理デバイスによる監視、操作を行うためには、都市の物理環境をコンピュータのサイバー空間上にモデル化するデジタルツインの形成が必要になる。物理環境は時々刻々移り変わるものであり、都市サービスを適切に提供するためには、デジタルツインは変化する物理環境を継続的に反映する必要がある。この講演では、デジタルツインの継続的な更新に向けて、市民による参加型センシングを利用する取り組み、および参加型センシングを実現する上で必要となるブロックチェーンやWeb3でのデータ共有の仕組みについて紹介する。

中里 秀則
中里 秀則(早稲田大学)
4 2024年4月

活用なき学問は無学に等しい~超低遅延、超多波長光ネットワークを目指して~

【講演内容】
本講演会では、前半は山中直明次期会長(慶應義塾大学)に、「活用なき学問は無学に等しい~超低遅延、超多波長光ネットワークを目指して~」と題して、最先端の光ネットワーク技術の実用化についてご講演をして頂きます。山中先生は、世界で唯一の空孔コアファイバーをキャンパスに敷設し、オープンラボにより多くのアプリケーションユーザーに参画頂ました。シーズ技術を日本ではどうビジネス化すべきなのか、そこに学会はどう貢献するのか、その戦略を述べて頂きます。  後半は経験豊富な研究者から新進気鋭のエンジニアまで5名の方をパネリストとしてお招きし、「電子情報通信のミライ」をテーマにパネル討論を開催します。パネル討論では今後の電子情報通信技術はどのように発展していくと予想されるのか、またアフターコロナの時代の電子情報通信技術がどこに向かって行くべきなのか、ご参加の皆様とともに”ミライ”を切り拓いていきます。

山中直明次期会長
山中直明次期会長(慶應義塾大学)
5 2024年5月

スマートヘルスケア最前線~生体信号検出から認知症検出まで~

【講演内容】
現代社会は高齢化が進み、また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という未曾有のパンデミックにより、心身の健康がこれまで以上に重要視されています。このような状況下で、情報技術と通信技術(ITC)は、心身の健康をサポートする上で極めて重要な役割を果たしています。さらに、人工知能(AI)も同様に、心身の健康サポートにおいて大きな期待が寄せられています。 本講演では、生体信号検出から認知症検出まで、AIを活用したITCに基づくスマートヘルスケアに関する最新技術を紹介します。

大槻 知明(慶應義塾大学)
6 2024年6月

大容量陸上光通信ネットワークの研究開発: ~Tbps級リンク容量の研究開発・実用化からPbps級リンク容量を目指して~

【講演内容】
光通信システムは、1981年に、当時の日本電信電話公社により日本で初めてF-32M方式(リンク容量32Mbps)が実用システムとして実用化された。以来、重層的に数々のパラダイムシフトを起こす技術革新を積み重ねることで飛躍的な発展を遂げ、現在では、多値デジタル変復調技術の実用化により、単一モード光ファイバ(SMF)1心でリンク容量16 Tbpsの実用システムが導入され、約40年で100万倍(10の6乗)近い大容量化が実現されている。本講演では、前半部で、自身が主に関わった1波長あたりのチャンネル容量40 Gbpsの波長多重システム(リンク容量1.6 Tbps)について、当時の時代背景と実用化した技術要素について述べる。具体的には、①陸上波長多重光ネットワークおいて、データトラヒックを柔軟に収容するための強力な誤り訂正符号を具備したデジタルフレームフォーマット(OTN: Optical Transport Network)技術と、②従来の2値強度変調直接検波方式にかわる多値差動位相変調遅延検波方式について解説する。後半部では、その後大きく発展し今日の実用システムを支えている光通信用多値デジタル変復調技術(デジタルコヒーレント検波方式)の発展について触れる。さらに、長距離伝送時の既存のSMFのリンク容量の物理限界(100 Tbps)を超えるPbps級リンク容量を目指した近年の研究動向について展望する。

宮本裕(日本電信電話株式会社)
7 2024年7月

学術ネットワークの設計と国際連携

【講演内容】
研究教育を支える学術ネットワークは、世界各国において商用とは異なる進化を遂げています。膨大なデータを扱う先端科学や多国間の国際共同研究等のために、各国が学術専用の超高速ネットワークや国際回線を有し、定期的に情報交換を行いながら国際連携を図っています。日本国内では、大学や研究機関の情報基盤センター等と共に、学術特有の多様なサービスを開発・導入しているのも大きな特徴です。利用者である様々な分野の研究者との直接対話も多く、都度元気をもらっています。本講演では、日本の1,000以上の大学や研究機関等をつなぐ学術情報ネットワーク(SINET)の設計・運用・利用例等に関して解説するとともに、他国の動向や国際連携の枠組みに関しても紹介します。

漆谷重雄(国立情報学研究所)
8 2024年8月

通信路符号化の深化 ーシャノン限界への挑戦ー

【講演内容】
シャノンによる情報源符号化定理の出現以降、シャノン限界(通信路容量)に漸近する伝送速度を持ち、符号長を長くすることで復号誤り率が零に収束する高性能符号を構成することは、情報通信に携わる研究者にとって永遠の課題であった。本講演では、1950年代から2010年代まで、シャノン限界への挑戦を通じて、通信路符号に生じたブレークスルーについて解説し、現在の通信路符号化技術の達成水準と今後の展望について明らかにする。

植松友彦(東京工業大学)
9 2024年9月

情報通信と性能評価モデリング〜マルチメディア・クラウド・ビットコイン〜

【講演内容】
通信トラヒック理論(待ち行列理論)は20世紀初頭にA.K.Erlangの電話交換網解析によって誕生し,その後100年以上の間,それぞれの時代に出現したアプリケーションの性能評価やシステム設計問題を解決することで大きく発展してきた.近年では計算機単体の高性能化やOS・ソフトウェアの高機能化,さらには情報ネットワークの高速化と無線通信技術の発展により,情報システムは未曾有の規模に巨大化し,ユーザの遍在化が進んで,提供される情報サービスは多様化の一途を辿っている.このような大規模・複雑化した情報システムに対し,構築コストとユーザ満足度のトレードオフを捉えたシステム横断的な性能評価法が益々重要になってきている.本講演では,1990年代の非同期通信(ATM)に代表されるマルチメディア通信技術から,高品質ストリーミング技術,大規模データセンター,さらにはビットコインのブロック・チェーン技術まで,講演者が取り組んできた性能評価研究を概観し,評価対象の特性抽出に向けた数理モデルの構築法を紹介するとともに,性能評価モデリングの重要性と意義について議論する.

笠原正治(奈良先端科学技術大学院大学)
10 2024年10月

メンブレンレーザとシリコンフォトニクス融合技術の研究: ~パッケージ内光インターコネクションの実現を目指して~

【講演内容】
情報通信・情報処理で扱うデータ量の増大,それに伴う消費電力の増大が社会的な問題となってきている。この課題を解決するために、NTTではIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱している。その中の重要な技術課題の一つは、光インターコネクションの短距離化であり,ボード内やチップ間の光化が研究開発課題となっている。光インターコネクションの短距離化のためには,光電気変換を行うための電力,つまり送受信素子の消費電力の削減がますます重要になるため,高効率な光素子の開発が必須である。また,CPUやメモリーなどの集積回路と送受信素子間の電気配線での損失の低減も無視できなくなってきており,電子回路と光送受信素子を密接に集積するための光電融合技術の進展が重要となる。光送受信素子に関しては,高密度に光デバイスを集積することが低コスト化に向けて重要なことからシリコンフォトニクス技術と化合物半導体光デバイスの異種材料集積技術も重要となる。本講演ではこれらの目的に向けてNTTで開発を行っているシリコンフォトニクスとの異種材料集積技術である化合物光半導体を用いたメンブレンフォトニクス技術について述べる。

松尾 慎治(NTT先端集積デバイス研究所)
2023年
No 開催月 講演内容 講演者(所属)
1 2023年1月

次世代を担う学生・若手研究者へのメッセージ

【講演内容】
情報通信の夢とそれによって実現される豊かな未来社会に向けて果敢に挑戦し、革新的技術及びイノベーションを継続的に創出することが求められている。次世代を担う学生・若手研究者へのメッセージとして、大学での36年間の教員生活を振り返りつつ、教育研究活動の楽しさについてお話させていただく。

笹瀬 巌
笹瀬 巌(慶應義塾大学名誉教授)
2 2023年2月

移動通信システムの現在、過去、未来

【講演内容】
1980年直前に商用導入されたセルラーシステムは、自動車電話から携帯電話に発展し、アナログの第1世代から40年に亘って世代が進化してきた。2020年を待たずに第5世代「5G」が登場し、その利用形態も拡大している。世代進化の過去を振り返り、技術の変遷、標準化、業界動向を解説し、さらに将来の世代進化を考察する。

尾上 誠蔵
尾上 誠蔵(ITU電気通信標準化局長)
3 2023年3月

光ファイバ通信の研究開発に携わって

【講演内容】
光ファイバによる大容量通信は、今日の情報化社会の根幹を支えている非常に重要な技術であり、1970年代から始まった研究開発は、大容量化、長距離化、高密度化、低コスト化などを目指して現在も続いており、本Webinarでも既に数名の著名な方々が紹介しています。今回の講演では、私が携わった光ファイバ通信の初期のころの研究開発の状況や、光モジュールの開発、波長多重通信、光増幅、コヒーレント光通信などについて、また北米での研究組織の立ち上げなどを経験して学んだこと、苦労したこと、感じたことなどをお話し、またこの分野で関連した本学会やIEEEでの活動で経験したことを紹介し、皆様のご参考の一助としていただければと思います。私はこの技術が立ち上がる時期にちょうど研究開発に参加できた幸運と、指導していただいた先輩方や、優秀な仲間たちと一緒に仕事ができた幸運のおかげ、と感謝しております。

桑原 秀夫
桑原 秀夫(富士通株式会社名誉フェロー)
4 2023年4月

情報通信ネットワークの温故知新

【講演内容】
21世紀も20年が過ぎデジタル技術はAIやメタバースなどの活用により単なるデジタル化からDXの実現に向けて急速に進展している。講演者は2006年に行った東大での最終講義において「ディジタルを求めて37年」について語ったが、その後の展開も含めて講演する。

青山 友紀
青山 友紀(東京大学名誉教授)
5 2023年5月

高速高効率無線LANの標準化活動と実用化

【講演内容】
Wi-Fi 4、5、6/6Eに対応するIEEE802.11n、11ac、11axは802.11a/b/gの系譜を引き継ぐ無線LANのメインストリーム規格と位置付けられている。世代を追うごとに体感速度を引き上げているこれらの規格では、伝送レートの高速化とともにデータ伝送の高効率化も行っている。高効率化に初めて着手した802.11nから現在標準化が行われている802.11beに至るまでの技術変遷を、標準化活動を行ってきた立場から実用化の観点も交えて紹介する。

足立 朋子
足立 朋子(株式会社東芝 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー)
6 2023年6月

ラウドネス(音の大きさ)の周波数特性と国際標準

【講演内容】
主観的な音の大きさをラウドネスという。ラウドネスは音の物理的な強さ(音の強さ)が同じでも周波数スペクトルが変われば変化する。純音(正弦波音)の場合、そのラウドネスは周波数によって変化する。逆に、純音の周波数を変えながら同じラウドネスに聞こえるレベルをつないでいくと等高線が描ける。これを等ラウドネスレベル曲線と呼び、ISO 226として国際規格になっている。これは聴覚の基本的な感度特性といえ、番号の若さからも聴覚の重要な基礎特性であることが分かる。1985年、それまでのISO 226が大きな誤差を持つとの指摘を受けて全面改訂が決定された。講演者は当初から改訂作業に参画、最終盤にはプロジェクトリーダとして2003年版の発行までを主導し、このISO 226:2003は今でも使われている。さらに、地上ディジタルテレビジョンにおいて音声信号のラウドネス測定に用いられているRec.ITU-R BS.1770に定める測定アルゴリズムとISO 226は意外な関係を持っている。この講演ではこれらについて分かりやすく話していきたい。

鈴木 陽一
鈴木 陽一(東北大学名誉教授)
7 2023年7月

光通信システムの実用化への挑戦を振り返って

【講演内容】
NTT入社後、1974年から研究所にて携わった黎明期の光ファイバ伝送の研究とそれをベースとしたNTT通信網に最初に導入したF-32M/F-100M光伝送システムの開発について最初に振り返る。その後1980年代から1990年代に行った、将来の広帯域通信サービスを夢みて挑戦した家庭までの光ファイバ化FTTH (Fiber To The Home)の研究開発、および通信網の全光化への挑戦であるフォトニックネットワークの研究経験について振り返る。これらの光通信システムの研究開発を通して、新技術の研究とそれを社会に役立つシステムとして実用化する過程で得た教訓を述べる。

三木 哲也
三木 哲也(電気通信大学名誉教授)
8 2023年7月

理工系を中心とした、博士大学院教育の未来

【講演内容】
文科省博士課程教育リーディングプログラムオールラウンド型「超成熟社会発展のサイエンス」を12年間実施してきた経験から、産業界と大学院の協同による博士人材育成が総合力のある人材育成にいかに効果的であるかを具体的な教育メニューと実際の学生の取り組み事例から紹介し、学生、アカデミア、産業界への今後の高度博士人材育成のためのメッセージをまとめる。

神成 文彦
神成 文彦(慶應義塾大学 名誉教授)
9 2023年8月

半導体光集積デバイス研究の40年

【講演内容】
1982年に大学院に入学した後、今日までの約40年間、半導体に基づく発光・光制御デバイス、光集積回路、太陽電池の研究、およびそれらを作製する基礎となるエピタキシャル成長・微細加工プロセス技術の研究に携わってきた経験をもとにお話ししたい。より具体的には、最初の10年は分布帰還型半導体レーザの研究、次の10年は有機金属気相エピタキシのメカニズム解明とモノリシック光集積回路作製への応用、その次の10年はデジタル光デバイス・回路の研究とフォトニックネットワークへの応用、最近の10年は新世代光通信、光コンピューティング、光センシングに向けた集積光デバイス・回路の研究、および化合物半導体高効率太陽電池の研究を行なってきた。この間、対象とする半導体は、GaAs系混晶、InP系混晶、GaN系混晶、シリコンと拡大し、結晶成長技術も液相エピタキシ、分子線エピタキシ、有機金属気相エピタキシと変遷してきた。今回の講演では、これまでの40年間を振り返って、何がうまく行ったか、何がうまく行かなかったかに着目し、皆様の参考にして頂けるようにお話ししたい。特に、中堅・若手研究者の皆様の将来に役立つメッセージを多く発することができればと思う。

中野 義昭
中野 義昭(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
10 2023年9月

半導体光集積デバイス研究の40年

【講演内容】
GaNによる青色LEDの実現は、携帯電話・スマートフォンやLED照明の普及の原動力となった。高効率化による省エネに加えて、システムの小型軽量化が社会実装を大きく促進させたと言える。この例が示すとおり、新エレクトロニクスの創成は社会を大きく変革させる。本講演では、今後期待される新エレクトロニクスとそれがもたらすであろう近未来社会システムの可能性について議論する。

天野 浩
天野 浩(名古屋大学教授)
11 2023年10月

カオス研究のアルファとオメガ(解説と回想)

【講演内容】
カオス現象は1970年代後半以来、自然科学のあらゆる分野において脚光を浴び、爆発的な研究資源の注入・活発な研究活動の結果として非線形科学技術分野における市民権を樹立した。しかし、現象に内在する課題には、現在に至るも、自然科学・応用技術的な見地から、魅力的だが未解決なものも少なくない。
 本講演では、長年にわたり現象の本質を追求し続け、ようやくたどり着くことが出来た成果を、演者自身の言葉で開陳させて頂きたいと考えている。当日は徒に理論的詳細部に立ち入ることなく、平易かつ直感的に理解いただけることを念頭に講演を心掛けるつもりです。また時間的余裕があれば、学術・技術的内容から逸脱したカオス研究のよもやま話を、お聞きいただきたいと考えております。

上田 睆亮
上田 睆亮(京都大学名誉教授)
12 2023年11月

外国語を「聞く耳」「話す口」の獲得を技術的に支援する

【講演内容】
野球,サッカー,バスケ,ラグビー,卓球,ボクシングなど,ここ数年スポーツの分野で日本人の活躍が目立つ.かつてはW杯出場を夢見ていた国民が,今ではW杯優勝を現実の目標として語るようになった.目を日本人の英語力に向けると,OECD加盟国で最下位,アジア諸国でも底辺に位置し,最近では中3のスピーキングテストで正答率12%という報道があった.講演者は高校時代に英語教師を目指し,大学時代は英語劇の舞台に立ち,音声科学・工学の分野に進み,技術を教える教授(東大工学系)となり,外国語音声教育支援を手広く手掛けている.2023年度からは,これまでの研究成果を総括する意味で,東大工学部にて,英語を聞く・話す素地を授ける授業を展開している.W杯出場が夢だった国民が,今,W杯優勝を語っている.それでは(おそらく明治維新以来)ずっと英語学習劣等生だった日本人が,誰でも英語ペラペラになる未来というのは存在するのだろうか?科学者・技術者視点でこの問いを論じてみたい.

峯松 信明
峯松 信明(東京大学 教授)
13 2023年12月

私にとってのファンダメンタルズ

【講演内容】
Beyond 5G(6G)は、次世代の基幹的な情報通信インフラとして、あらゆる産業や社会活動の基盤となり、普及が著しく進んでいくことが見込まれています。本講演では、Beyond 5G時代を見据えたフォトニクスポリマーの最先端の研究成果をご紹介するとともに、世界最速プラスチック光ファイバーの開発に至るまでを振り返り、自分にとっての研究におけるファンダメンタルズ に戻ることの大切さを述べたいと思います。

小池 康博
小池 康博(慶應義塾大学教授)
14 2023年12月

非線形信号処理からAIへ―40年前の研究が今活きる―

【講演内容】
今から40年ほど前、本講演者は非線形信号処理の研究を開始した。この研究は、雑音で不鮮明になった画像に対して何が映っているのか人が認識できるように、計算機処理により雑音劣化画像から、エッジ情報を損なうことなく、真の画像信号を推定しようとするものである。それから間もなく、第二次AIブームが起こり、この研究はニューラルネットワーク型信号処理に繋がった。その後、対話型進化計算を導入して、人の好みや感性を考慮した画像処理の研究となった。本講演では、雑音除去から始まり、人の感性をも考慮することになった非線形信号処理の研究を紹介する。また、40年前に提案した非線形信号処理の手法が、第三次AIブームを支える深層学習の重要技術であるresidual networkに相当するものになっていることもお話しする。

荒川薫
荒川薫(明治大学)
2022年
No 開催月 講演内容 講演者(所属)
1 2022年1月

脳に学ぶ視覚情報処理

【講演内容】
高いパターン認識能力を学習によって獲得することができる手法として、深層学習(deep learning)やdeep CNN(深層畳み込み神経回路)が最近注目を集めている。福島が1979年に発表しネオコグニトロンは、そのようなdeep CNNの源流と言われており、文字認識をはじめとする視覚パターン認識に高い能力を発揮する。ネオコグニトロンの歴史は古いが、現在に至るまで種々の改良が加えられ発展を続けている。そこで、脳の神経生理学的研究をヒントにネオコグニトロンの着想に至った経緯や、現在広く用いられているdeep CNNとの相違点に重点を置きながら、最近のネオコグニトロンを紹介する。

福島 邦彦
福島 邦彦(ファジィシステム研究所 特別研究員)
2 2022年2月

ポストコロナとVR

【講演内容】
コロナ禍は、われわれの社会を大きく変えることになるだろうし、技術もまた例外ではない。とりわけサイバー系の技術は今後の社会のあり方と関係が深く、大きな進化淘汰圧が加わるものと予想される。  本講演では、コロナを経て大きくその姿を変えつつあるVR技術について、最近の状況を紹介する。とくにオーバーブラウザ型VRや、ノーモーションVRなどの新しいVR技術の動向について述べるとともに、再び勃興しつつあるメタバースやデジタルツインなど、基盤化するVR技術の今についても触れたいと思う。

廣瀬 通孝
廣瀬 通孝(東京大学名誉教授)
3 2022年3月

長距離光海底ケーブル通信システムの研究開発:背景、経緯、現状、将来に向けて

【講演内容】
光海底ケーブル通信システムは特異な技術分野である。一般に1,000km~10,000kmと長距離である。陸上と環境が大きく異なるためケーブルや中継器の設計・製造と敷設に高度な技術が要求される。修理の困難性から非常に高い信頼性が要求される。また、もう一つ重要な側面は技術革新を絶え間なく求めたニーズの変遷である。本講演では、筆者が関わった太平洋横断ケーブルの研究開発に焦点を当てて、その背景や経緯について示した後、GAFAが主役になりつつあるケーブルの現状や将来について述べたい。

秋葉 重幸
秋葉 重幸(元株式会社KDDI研究所 代表取締役所長)
4 2022年4月

移動通信とともに歩んだ研究生活を振り返りつつICTのこれからを考える

【講演内容】
40有余年にわたる研究生活は電子情報通信技術が大きく発展した時期と軌を一にしており、まさに研究者冥利に尽きる。よもやま話を交えつつ1980年代以降の情報通信技術の革命的ともいえる発展の歴史や世相を振り返り、電子情報通信技術ならびに技術者のこれからについて考えてみたい。例え僅かであれ、若い研究者の皆さんがこれから研究生活を続ける上でのヒントになることを願いつつ、、、

吉田 進
吉田 進(京都大学名誉教授)
5 2022年5月

企業での研究開発を経験して―ディジタル信号処理からネットワークビジョンまで―

【講演内容】
私は1975年から長い期間を企業の研究所で過ごし、その間様々な分野・テーマを担務し貴重な経験をさせて頂きました。このような経験から、今回頂きました機会では、特定技術の歴史的な流れを紹介するのではなく、この間取り組んできた様々な研究についての概要および当時の思いを紹介しつつ、企業での研究生活の一端を紹介できればと思っています。また現状からから当時の活動を顧みてみたいと思います。ただ、日本の企業を取り巻く環境も当時とは大きく変化しており、研究活動も様相を異にしているため直接お役に立つ話ではないかと思いますが、何かのヒントにでもなればと思います。
簡単に経験を紹介します。基本的には通信分野の研究開発に関連した活動ですが、大きく分類するとディジタル信号処理とDSP LSI開発、ディジタル伝送方式と関連LSI開発、動画像符号化、および最終的にはネットワークビジョンへの取り組みといえます。大学院卒業後研究所に入所すると同時に、ディジタルMODEM開発プロジェクト開発に従事し、当時核となるディジタル信号処理プロセッサ(DSP)というもの自体がなかったため独自のDSP LSIの研究開発の取り組みに従事しました。その後3世代にわたるDSP LSI開発に携わり、最後は汎用プロセッサの研究開発につながっています。次に、加入者までディジタル通信を可能にするISDN加入者伝送方式および伝送用LSIの研究開発に従事しました。また伝送技術については、光通信用3R中継器LSIはじめ光通信の研究開発にも従事しています。その後無線通信やネットワークについてもマネジャーとして関与しています。通信サービスとしては、草創期の動画像符号化の研究にも取り組んでいます。ISDN、BISDNおよび動画像符号化については、企業として重要な側面である標準化活動にも参加しました。
次第にマネージメントの役割が増え、担務として見る範囲が増えてきたある時に会社の将来の姿の在り方についての課題を受け、システムの将来ビジョンまとめに取り組みました。これをきっかけに、その後ネットワークシステムビジョンへの取り組みを行い、現役をはなれた現在も一部取り組みを続けています。
今回は、このような研究取り組みの流れを紹介したうえで、DSP、動画像符号化、およびネットワークシステムビジョンへの取り組みについて、お手本がない課題に、あるいは草創期の課題にどのように取り組んだか、また合わせて当時どんな事を考え議論していたかを紹介し、現在の状況と照らし合わせながら紹介したいと思います。

津田 俊隆
津田 俊隆(早稲田大学GITI・顧問)
6 2022年6月

集積回路開発40年の歩み―ADC、アナ・デジ混載SoC、ミリ波CMOS技術を中心として―

【講演内容】
今日、半導体(集積回路)は電子機器のみならず自動車を含む全ての機器の最重要部品として国家の安全をも左右するものと認識され始めています。
集積回路は回路自体はボード上の回路とあまり変わりませんが、集積回路になって初めて機器の性能と信頼性を上げるとともにコストと消費電力を下げることができるため、機器の普及と産業の発展には欠かせません。しかしながらデジタル回路はスケーリング則により微細化と高集積化により性能を上げながらコストと消費電力を下げることができますが、私が開発を担当したデジタル映像機器やデジタル無線通信機器に必要なアナログ・デジタル混載集積回路では、A/D変換器(ADC)などでアナログ信号をデジタル信号間に変換するためにアナログ技術が必要ですが、デジタル回路とは異なりデバイスと回路性能の関係や、微細化と性能・消費電力の関係が不明確なため、特別な集積回路設計技術開発を必要としました。幾つものブレークスルーが必要とされたのです。
ところで現在では静止画や動画を普通にやり取りできるようになりました。このためにはビデオ用ADCが必要ですが、私が集積回路開発を始めた1979年には集積化されたビデオ用ADCは存在しなかったため、当時の私の使命はTV・VTRのデジタル化に必要な集積化されたADCを世界に先駆けて開発することであり、いくつもの世界初あるいは世界トップのADCを開発しました。この開発は、HDTV、デジタルポータブル映像機器、DVDなどのデジタル映像機器が誕生と発展に大いに寄与しました。またローパワー技術の開発により機器の小型化や省エネ化が進みポータブル機器、ウエアラブル機器、インプランタブル機器が発展しました。更にミリ波CMOSトランシーバの開発は従来利用できなかったミリ波通信の5Gシステムでの実用化に寄与しました。
今回の講演においては2022年IEEE Donald O. Pederson Award in Solid-State Circuitsの受賞理由である以下の4つの開発テーマについて、電子機器の発展、デバイスの発展、デバイスの課題とそれを克服する回路技術やシステム技術、半導体ビジネスのポイント、人材育成などについて40年以上に及ぶ講演者の開発体験をもとに論じようと思います。

1.デジタルTV・ビデオシステム実現のためのバイポーラADCの開発
2.超低電力CMOS ADCの開発とローパワーエレクトロニクスの振興
3.低電力超高速ADCの開発とアナログ・デジタル混載システムLSIの開発
4.ミリ波CMOSトランシーバの開発

松澤 昭
松澤 昭(株式会社テックイデア 代表取締役)
7 2022年7月

Beyond 5Gへの挑戦~分散OSの黎明期からSociety5.0を俯瞰して

【講演内容】
分散OSの黎明期から、分散リアルタイムシステム、ユビキタスコンピューティングシステム、IoT、CPS、スマートシティなどコンピューティングとコミュニケーションの融合に関して、長年に渡って研究開発に携わってきた経験から、2030年頃の社会インフラとして期待されているBeyond 5G/6Gの課題やあるべき姿について議論する。

徳田 英幸
徳田 英幸(国立研究開発法人 情報通信研究機構 理事長)
8 2022年8月

デジタル時代のサイバーセキュリティ

【講演内容】
近年の様々な技術革新とその実用化、社会実装による情報と情報通信システムのデジタル化は人類社会の在り方を一変させる社会基盤となりつつあります。この変化は、あらゆる社会活動、個人生活に浸透し、コミュニケーションやビジネス、生産活動の生産性向上、多様な社会福祉の実現といった人類社会の向上に大きく寄与しています。一方で、この社会基盤が広く普及するに従って、意図的或いは意図せずに我々の社会活動に大きな弊害とリスクをもたらしうることにもなってきています。
サイバーセキュリティはデジタル化された社会システムのリスクマネジメントです。リスクマネジメントは、この社会システムが将来にわたって期待通りには動かなくなることを防止することです。しかし、現代のデジタル社会システムは様々な立場の人々、組織、国家が参加し、利用目的も様々な複雑で創発的なシステムになっています。立場と見方、目的によってリスクとその予測は異なります。対策も、主観的なものになってしまいます。このような複雑で困難な状況を少しでも改善するには、サイバーセキュリティリスクに対する幅広い状況認識を共有することが基本になると思います。今回の講演では、現在のサイバーセキュリティの状況をグローバルな観点で、微力ですがお伝えできることを目的としています。これからの電子情報通信技術の研究開発とその実用化、社会実装において、サイバーセキュリティを考えることは必須です。聴講頂ける皆さんの今後の活動のお役に少しでも立てればと考えています。

三宅 功
三宅 功(NTTデータ先端技術株式会社 フェロー)
9 2022年9月

音声通信の歴史と未来―音声音響符号化技術の視点から―

【講演内容】
情報革命を身近に実感できる音声通信の発展について、それを支える要素技術のひとつである音声音響符号化技術の側面から紹介する。音声通信は固定電話、移動電話を経て、多地点、高臨場などの多様な機能をソフトウェアで実現する形態への過渡期にある。次世代の音声通信をめざして現在策定中の3GPPでの標準化を紹介し、安定した音声品質を維持しながら使う人にとって快適で自由度の高い音声通信の将来像を模索したい。

守谷 健弘
守谷 健弘(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 NTTフェロー)
10 2022年10月

浮草研究者と人工知能研究

【講演内容】
大学院を出てより、ボストン(3年)、筑波(5年)、ピッツバーグ(11年)、東京(18年)、北京(2年)、シアトル(5年)と浮草人生を送ってきた。この間、その地での研究機関に職を得て、人工知能の1分野である、コンピュータに目をとりつけ外界を認識させるコンピュータビジョンと呼ばれる分野で、禄を食んできた。ミンスキーやニューエルなど分野の原点と呼ばれるダートマス会議参加者とも直接話をする機会を得た。この経験から見た、人工知能研究の流れと当方の研究のからみ、並びにそこで得たつたない経験を話す。

池内 克史
池内 克史(米国マイクロソフト)
11 2022年11月

複雑系数理モデル学とICT

【講演内容】
本講演では、複雑系数理モデル学とICTに関して、いくつかの話題をお話する。まずはじめに、複雑系数理モデル学の歴史的経緯とその理論的プラットホームである複雑系制御理論、複雑ネットワーク理論、非線形データ解析理論の概略 をお話する。次に、複雑系数理モデル学の応用例として、未病の数理研究やニューロインテリジェンスと次世代人工知能などに関して、具体例を交えてご紹介する。最後に複雑系数理モデル学の未来について展望する。

合原 一幸
合原 一幸(東京大学特別教授)
12 2022年12月

心を持った機械

【講演内容】
機械が心を持ち得るか、あるいは人間は機械であるか、という問いは多分に哲学的に聞こえますが、あらゆる意味で人に馴染む機械をつくるという実用上の課題から見ても大いに興味を惹かれるものです。心を持つ機械の向こうには、人間と機械の新しい関係が見えます。さらには、生物学とは異なった道筋で、「生き物を創る」「人間を創る」という野心が見えます。ここ数年「機械システムの意識」に取り組む研究も現れてきました。神経細胞単体の数式モデルから始まって、既成概念を破壊するような最近のAIの登場までをリアルタイムで体験した者として、科学技術と人間の未来を「心を持った機械」を梃子に押し開けないかと思います。もとより浅学で思いだけの夢想なのですが、皆様のより深い思索のきっかけになれば幸いです。

橋本 周司
橋本 周司(早稲田大学名誉教授)
2021年
No 開催月 講演内容 講演者(所属)
1 2021年1月

スーパーコンピュータ「富岳」の開発とコデザイン

【講演内容】
スーパーコンピュータ「富岳」は、独自開発の国産メニーコアプロセッサA64FX15万チップを結合した大規模な並列コンピュータであり、2020年には様々なスパコンのベンチマーク・ランキングで世界1位となった。2014年から7年間で「富岳」を開発したフラグシップ2020プロジェクトにおいては、理化学研究所と富士通が、計算科学のアプリケーションとのコデザインを行ってシステム開発を進めてきた。「富岳」の概要とともに、そのコデザインについて概説する。

佐藤 三久
佐藤 三久(理化学研究所計算科学研究センター・副センター長)
2 2021年2月

情報の時代を勝手に俯瞰する

【講演内容】
いまは情報の時代と言われます。ここでは、その歴史を俯瞰して、あわせて未来を勝手に展望します。電子的な情報技術の歴史は19世紀にさかのぼりますが、もちろん情報の歴史はそれだけではありません。一方でコンピュータは終戦後の1946年に誕生しました。実は私はその前年に生まれています。まさに同世代ですが、それだけに情報の時代のこれからが気になります。それはバラ色の未来を約束するのでしょうか。

原島 博
原島 博(東京大学名誉教授)
3 2021年3月

社会情報基盤を構築するための工学とは?

【講演内容】
昨年からのCOVID-19の感染拡大により、社会の各分野でDX(Digital Transformation)が叫ばれている。Society5.0を標榜していたにもかかわらず、 我が国の社会情報基盤の脆弱さは、様々な側面で明らかになり、ようやく社会全体が情報ネットワークと計算機構とデータ基盤からなる新しい社会情報基盤の 構築の必要性を認識し始めた。本講演では、作りたい社会像から様々な先端技術を組み合わせて、持続的かつ安 全・安心な社会情報基盤を作るための方策を議論する。

安浦 寛人
安浦 寛人(九州大学 名誉教授)
4 2021年4月

電波科学の100年と持続可能な発展への取り組みの道すがら、想うこと

【講演内容】
昨年からのCOVID-19の感染拡大により、社会の各分野でDX(Digital Transformation)が叫ばれている。Society5.0を標榜していたにもかかわらず、 我が国の社会情報基盤の脆弱さは、様々な側面で明らかになり、ようやく社会全体が情報ネットワークと計算機構とデータ基盤からなる新しい社会情報基盤の 構築の必要性を認識し始めた。本講演では、作りたい社会像から様々な先端技術を組み合わせて、持続的かつ安 全・安心な社会情報基盤を作るための方策を議論する。

安藤 真
安藤 真(東京工業大学 名誉教授)
5 2021年5月

本当の感覚通信を求めて ーリアルハプティックスの歴史と未来ー

【講演内容】
私たちが感覚信号を人工的に利用しようとした場合必要になる機能は信号のデータ化、伝達、記録、そして再現である。五感のうち聴覚・視覚に関する感覚伝送に関しては、先人の努力で立派な学問体系が打ちたてられているが、その他の感覚、なかんづく力触覚に関してはデータ化すら行われていない。果たして聴覚や視覚と同様な感覚伝送が可能なのであろうか。もし可能なら、どんな応用が拓けるのであろうか。このような長年の疑問が氷解したのはごく最近のことである。その最初の挑戦はすでに1940年代における米国でのパイオニア的な研究であった。21世紀になり、ロボティクスでの人工感覚の必要性が認識されるようになり、ようやく学問体系を作ろうという動きが始まってきた。もし私たちがこの技術を普遍化してeasy-to-useという段階に至ると、少子高齢化や製造業・農業などにおける非定型作業の自動化といった日本の社会や産業が抱えている諸問題を解決する一助になるであろう。力触覚における感覚伝送技術の鍵となるリアルハプティクスについてご紹介し、私たちにどのような種類の幸せをもたらせてくれるかを皆様と一緒に考える。

大西 公平
大西 公平(慶應義塾大学 ハプティックス研究センター 特任教授)
6 2021年6月

データの時代:定年まで続けたデータベース工学研究の振り返りとコロナ時代におけるノーノーマルの考察

【講演内容】
約40年間長らくデータベースの研究をして参りました。大学では殆ど管理職をせず、研究をたっぷりさせて頂きました。ようやくデータの時代となりました。6期の基本計画はデータだらけとなりました。今のIT研究と40年前のコンピュータ創成期のIT研究は大きく違うとは思いますが、自らが歩んできた研究者人生を振り返り、その展望を試みます。サイテーションを気にする必要のないのびのびとした時代でした。 全ての学術がデータ駆動化されるなかで、国立情報学研究所では、アカデミアのためのデータプラットフォームを構築しつつあります。400ギガビット/秒のSINET6と融合することにより、快適なデータの世界が広がります。このトリガーが最後の仕事となります。 時間がありましたら、データ屋から見たコロナの不条理(会誌3月号オピニオンに記載)について考えたいと思います。

喜連川 優
喜連川 優(東京大学 特別教授)
7 2021年7月

移動無線通信技術の発展と将来展望,そして研究開発の醍醐味

【講演内容】
移動通信システムは第1世代からおよそ40年をかけて第5世代まで進化し、10年後の第6世代を目指した研究開発が始まった.これまでの10年ごとの世代交代を支えた移動無線通信技術の発展を紹介し,その将来を展望する.また,複雑過酷な伝搬環境の下での高速高品質通信を目指してきた技術開発の醍醐味についても触れたい.

安達 文幸
安達 文幸(東北大学 名誉教授)
8 2021年8月

"情報ネットワークの周辺で画像と共に半世紀"ーファクシミリ通信から通信政策まで、実践から研究へー

【講演内容】
私自身、大学院を修了した後NTTで13年半技術開発を担当して、その後、東京工業大学で24年半、教育・研究に従事してきた。研究分野としては画像を対象とした情報ネットワークと情報ネットワークに適した画像表現法を中心としてきたが、振り返って見ると、多くの分野で先に開発等の実践的活動を行い、その後研究活動を行ってきたように思う。東工大時代の後半から政府の通信政策にも関りを持ったが、これもその後、津田塾大学総合政策学部で研究の対象とした。ファクシミリ通信から政策までの分野で、実践を先にその後研究を繰り返してきた私自身の経験をお話して、今後の学会で進んでほしい方向についても思うことを述べたい。

酒井 善則
酒井 善則(東京工業大学 名誉教授)
9 2021年9月

"フェイクとの闘いー暗号学者の視た理念と現実・太平洋戦争からコロナまでー

【講演内容】
太平洋戦争から暗号・サイバーセキュリティの研究、コロナ禍までの発表者の生涯を、理念と現実の相克と軸として振り返り、自由の拡大、公共性・安全性、個人の権利・プライバシイの矛盾しがちな理念の三止揚を、Management, Ethics, Law and Technology によって達成すること、即ち、MELT-UP することを提案する。また、究極の本人確認方式と、耐量子コンピュータ暗号の提案、シニア・女性研究者の活動支援のための光輝会活動や、Y00量子ストリーム暗号研究支援等、最近の活動について紹介する。

【主な項目】 ①小学校高学年の戦争体験と皇道理念
②太平洋戦争に対する文化人たちの現実認識
③研究履歴:伝送理論・デジタル信号処理から暗号理論研究とサイバーセキュリティ総合科学の提案
④情報セキュリティ大学院大学学長としての人材育成
⑤電子情報通信学会100周年(2017年)記念における偉業(マイルストーン)取り纏め
⑥シニア研究者としての研究( 究極の本人確認方式の為の3階層公開鍵暗号の提案、多変数公開鍵暗号による耐量子コンピュータ暗号の開発
⑦セキュアIoTプラットフォームフォーム協議会活動
⑧中央大学研究開発機構におけるシニア研究者の活動紹介と光輝会の設立

辻井 重男
辻井 重男(中央大学研究開発機構 フェロー・機構教授)
10 2021年10月

デジタル社会の創生


村井 純(慶應大学教授・内閣官房参与(デジタル政策分野担当)
11 2021年10月

"光ファイバ通信の200THzポテンシャルの開拓:研究から社会インフラへ昇華の過程に支えられて

【講演内容】
光ファイバ通信技術は、物理モデルの限界挑戦研究から、開発量産化され、日本はもちろん世界中の社会インフラとして、浸透してきた。本講演では、光ファイバの有する潜在能力を引き出す不断の努力を振り返ることで、新たな研究開発へのチャレンジの一助となることを願っている。一見延長線上に見える「研究と開発」であるが、社会インフラとしての運用まで考えると大きなギャップがある。できるだけ、過去の40年の経験に照らして、その違いとギャップを埋める努力をフォトニクス技術・エレクトロニクス技術・ソフトウェア技術を組み合わせて、システムとそれをサポートする計測技術とをコンカレントに進めることで持続的な発展をなしえたメカニズムを述べてみたい。

萩本 和男
萩本 和男(NTTエレクトロニクス株式会社)
12 2021年10月

AI時代にリーダーシップをとるために

【講演内容】
アメリカのシカゴで、AI(人工知能)の研究と教育を中心とする、博士課程だけの大学院大学の学長を6年間務めた経験を基に、アメリカと日本の大学と社会の違いを比較しながら、AI時代のグローバル化された世界で、日本の大学と社会が如何に発展し、リーダーシップをとれるようになれるかの提言を行う。(参考資料:古井「AI時代の大学と社会 ーアメリカでの学長経験からー」(丸善プラネット、2021)

古井 貞煕
古井 貞煕(国立情報学研究所研究総主幹・東京工業大学栄誉教授)
13 2021年11月

面発光レーザーの創案と応用分野の広がり

【講演内容】
面発光レーザーの発明から最近の発展までをお話します。面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)とは、半導体レーザーの一つで、1977年に講演者によって発案されました。半導体基板に対して垂直に光が共振し、図のように表面から光が出るのでこのように名付けました。ウエハプロセスによって大量生産が可能です。共振器長を波長と同じ程度にできるので、単一波長動作が可能です。共振器長と横方向が数ミクロンの大きさにすればレーザー発振に必要なしきい値電流が0.1-1 mA以下と通常の半導体レーザーの1桁から2桁ほど小さく出来、消費電力の大幅な低減が可能です。また、2次元アレー状の特徴を活かした並列処理を可能にします。LAN、コンピュータ用マウス、レーザープリンター、スマートフォンにおける顔認証、レーザーレーダー、OCT、各種センサーなど広く用いられるようになりました。産業的にも急成長期を迎えています。IoT(Internet of Things)技術からAI(人工知能)技術の物理層を支える光源としてその動向に注目が集まっているのです。デバイスの売り上げも2025年には1兆円に達すると予測されています。レーザーの登場以降に発展してきた光エレクトロニクスの歴史を振り返り、これからの飛躍への一里塚(Milestone)ともなれば幸いです。
参考文献
[2020IGA] 伊賀健一:“面発光レーザーが輝く”、第2版(電子版)オプトロニクス、2020
[2020IGA] 伊賀健一、波多腰玄一:”面発光レーザー:原理と応用システム”アドコムメディア社、2020

伊賀 健一
伊賀 健一(東京工業大学・名誉教授/元学長、本会元会長)
14 2021年12月

AIの時代に玄人をめざす人へのメッセージ

【講演内容】
研究者はだれもが「良い研究、インパクトのある研究」を目指すものである。それはどういうことかについて私の経験を通じて楽しく議論したい。

金出 武雄
金出 武雄(カーネギーメロン大学 ワイタカー記念全学教授)
2020年
No 開催月 講演内容 講演者(所属)
1 2020年6月

EDFA 長い冒険の旅
~光ソリトンからコヒーレントナイキストパルスへ~

【講演内容】

(1) EDFA(エルビウム添加光ファイバ増幅器)発明への道

(2) EDFAを用いた新たな光伝送技術への挑戦

  • 光ソリトン伝送からコヒーレントナイキストパルス伝送へ
  • 3つのマルチ(3M)技術(Multi-level modulation with 4096QAM, Multi-core fibers, and Multi-mode control toward Petabit/s transmission)
  • ポスト5Gに向けた無線と光のシームレスな融合(Digital coherent mobile fronthaul)

(3) 若い人へのメッセージ

(4) まとめ&会長声明 -「コロナ後」の電子情報通信技術の発展に向けて-

中沢 正隆
中沢 正隆
2 2020年7月

移動体通信の未来
~地上2次元セルから3次元空間セルへ~

【講演内容】
移動体通信の変遷、ドローン携帯システム、HAPS携帯システム、3次元空間セル構成を実現するシステム間連携制御

藤井 輝也
藤井 輝也(東京工業大学特任教授、ソフトバンク(株)フェロー(兼任))
3 2020年9月

数理工学から見たICT
~情報幾何学と人工知能の歴史的発展、現状、将来への希望~

【講演内容】
情報通信技術は、数理的な手法とともに成長してきた。電子情報通信学会を舞台とした、半世紀を超える私の研究を、情報幾何と数理脳科学、人工知能(深層学習)を題材に、その黎明期、発展の現状と問題点、さらに将来への希望を展望したい。また、これからの社会と技術についても語りたい。

甘利 俊一
甘利 俊一(理化学研究所栄誉研究員)
4 2020年11月

新・半導体戦略
~脳とコンピュータと集積回路の歴史とその展望から考える~

【講演内容】
ポストコロナの時代を見据えてSociety 5.0への転換が急がれる。そのための基盤技術である半導体が新世紀を迎えようとしている。AI、IoT、5Gが求める半導体技術は何か?加えて、半導体産業にゲームチェンジが起こり、半導体の地政学が国家戦略の文脈で語られるようになった。こうした大激動の時代に、日本の半導体はどこへ行くのであろうか?半導体の歴史を振り返り将来を展望しつつ、半導体戦略を再考したい。

黒田 忠広
黒田 忠広(東京大学教授)