電子情報通信学会行動指針

(2011年2月21日制定)
(2023年9月4日改正)

前文

 我々電子情報通信学会員は社会に向けて次の通り宣言する。

 電子情報通信技術が現代社会において果たす役割とその可能性は極めて大きい。一方で,この技術の根元である電子や電波,物理的実体のない情報は直接的な理解が困難であり,また,電子情報通信技術の発達や普及が長期的にどのような影響を及ぼすか明確に見通すことも容易ではない。

 電子情報通信技術に関わる者は,電子情報通信技術のこのような特質を深く理解し,自らの職業的実践および専門的活動を通じて,全人類社会の健全な発展と地球環境の保全に貢献する責務がある。

 本学会員は,これらを認識して広く電子情報通信技術者が誠意と良識をもって職務を遂行することで尊敬される専門職となることを切望し,この倫理綱領を遵守する。同時に,本学会は,本学会会員がこの倫理綱領に合致して行動するように,教育と支援に努める。

1.
[基本原則] 公正と誠実を重んじ,他者の権利を尊重する。

1-1
人種や国籍,宗教,思想,ジェンダー・ジェンダー表現・性的志向 ,年齢,障碍など個人および帰属集団の属性により差別せず公平に扱い,もって公正な社会実現に努める
1-2
専門家として正直で恥じることのない行動をとる
1-3
生命,財産,名誉,プライバシーおよび自由・自律等の他者の権利を尊重する
1-4
研究開発を通じてまたその立場を利用して他者の尊厳を損なう言動を行いまたは環境の醸成をしてはならない。
1-5
電子情報通信が,差別や他者の権利侵害などを助長する特質があることを認識し,その防止に努める

2.
[技術の目的] 電子情報通信技術の研究開発と活用を通じて,人々の安全,健康および福利の向上並びに社会の発展を目指す。

2-1
電子情報通信技術の研究開発や活用において,人々の安全と健康,福利の向上を優先する
2-2
電子情報通信技術の研究開発や活用において,自然環境と調和した人々の生活の豊かさや文化的多様性,心身機能の障碍の克服などさまざまな物質的・精神的価値の実現と増進を目指す
2-3
電子情報通信技術の研究開発や活用において,効率や性能の向上のみを追求するのではなく,公益に十分配慮する
2-4
電子情報通信の職業実践および専門的活動においては,トレードオフの関係およびジレンマをはじめとする,1つの尺度では測れない関係にある価値が存在することを理解し,その均衡をはかる(特記(1)参照)

3.
[技術の重要性の認識] 電子情報通信の社会活動における重要性を理解し,電子情報通信技術とその活用によって生じる,人間・社会および地球環境への影響を客観的に明らかにする。

3-1
電子情報通信技術の進展とその成果が与える社会的責任を自覚する
3-2
電子情報通信技術の活用によって生じる社会および環境への影響について,プラス面についてもマイナス面についても客観的に明らかにする
3-3
電子情報通信技術の活用によって生じる社会および環境への影響に関する客観的事実を適宜公開する

4.
[品質保証] 専門家として職務に最善を尽くし,成果の品質維持と向上を図る。

4-1
職務のプロセス品質(社会,顧客および利用者の期待を設計に反映させること等)および成果品質(不具合が極小化されている等)の向上に努める
4-2
職務に関する製品やサービスの不具合が放置されることのないよう,不具合の発生を想定した体制および対処方法を事前に定めておく
4-3
職務の遂行において,顧客や利用者が期待する品質要求を満たすことだけでなく,社会の要求(コンプライアンスや環境保全,リサイクル等)を十分考慮に入れる
4-4
職務の遂行において,組織や他の専門家などの品質チェックを受けることにより,品質保証基準を満たした成果を創出する

5.
[契約遵守] 公益に配慮しつつ,契約締結の是非を判断し,また,職務上取り交わした契約を遵守する。

5-1
雇用者との契約や委託者との契約など職務上の契約をよく理解し,遵守する
5-2
職務上知りえた秘密情報は,これを第三者には漏らさず,私的な利益のために使用しない
5-3
受託業務においては,顧客の指示に従うばかりではなく,専門家として顧客の真の利益を追求し提案する
5-4
人命の損失など社会や環境に重大な影響が懸念される時は,守秘義務等の契約内容にかかわらず,事前に雇用者・受託者と協議の上,その懸念を回避するよう努める

6.
[事実の尊重] 事実に基づき誠実に行動し,信頼性の高い発表とその相互評価を行う。

6-1
発表や報告に使用するデータの捏造や改ざんを絶対に行わない
6-2
発表や報告は,誠実に行ない,必要以上の誇張や偏った表現は慎む
6-3
発表や報告は,客観的であることを心がけ,必要に応じて追試が可能であるよう配慮する
6-4
論文等の査読は,専門家として誠実に行い,故意に偏った評価を与えたり,判断を遅らせたりせず,また,査読で知りえた情報を漏えいしない
6-5
組織としても事実を認識及び尊重し,たとえ組織の利益に反するような場合でも「事実の尊重」に反する行為を部下等に強要しない

7.
[オリジナリティの尊重] 他者の創意工夫や成果を尊重する。

7-1
成果創出にあたっては,先行業績を尊重し,独自の価値の創出を目指す
7-2
複数の関係者によって成果を創出した場合,貢献した者の寄与,貢献範囲を明確にする
7-3
他者が行った分析,比較,評価等の成果を利用する場合は,その出所を明示する

8.
[相互協力] 専門家としての良心に基づいて自由な討論を促し,進んで他者と協力する。

8-1
他者との活発な討論や連携が技術の発展へ寄与することを理解し,他者との討論や協力活動に積極的に参加する
8-2
自ら所属する組織の規則等を遵守しつつ,情報を発信して活発な討論を促す
8-3
メンバーが対等な立場で討論に参加できる場を,関係者と協力して提供する

9.
[自己啓発と対話] 自己の専門能力の維持・向上に努めるとともに,当該専門分野が多くの人に信頼されるように対話に努める。

9-1
常に最新の知識の習得に努めるなど,自己の専門能力の維持・向上に努める
9-2
他の専門家との対話に努め,専門知・経験等を共有すると同時に,将来を担う世代を育成する。
9-3
自己の専門分野以外の多くの人々との対話に努め,前項と合わせ,広く社会に支えられた,専門分野の持続可能性を確保する。
9-4
管理的立場にある者は,その管理下にある構成員が「自己啓発と対話」に必要とする資源の確保に配慮する
9-5
管理的立場にある者は,職務に関わる者が電子情報通信学会倫理綱領に沿った行動ができるような体制作りに努める
9-6
他分野の専門知および生活における知識・経験・感覚を尊重し,対話を通して総合知を推し進め,専門分野への信頼を獲得する。
9-7
学会員は,倫理綱領および行動指針のあり方と適用について利害関係者と対話するよう努める。

10.
[法令の学習] 職務に関連する法令や規則を継続的に学習し,遵守する。

10-1
職務に関連する法令や規則を学習する機会を積極的につくる(特記(1),(2)参照)
10-2
職務に関連する法令や規則の新設や改定に際しては,これを必ず参照する
10-3
管理的立場にある者は,その管理下にある構成員が職務に関連する法令や規則を学習できる体制をつくる
10-4
法令や規則は国や地域によって異なるため,職務に関連する海外の法令や規則も積極的に学習する


特記(1)
職務に関連する規則には,法令に伴う規則,業界団体・技術者団体などの定めるガイドライン・規定のほか,組織内で定められる就業規則や倫理規程,外部発表上の規則等を含む
特記(2)
電子情報通信技術の研究開発およびその設計・運用に関連する,日本の主要な法令を電子情報通信学会ウェブサイトで示す


別表(日本における関係法令等)

■基本的法令
日本国憲法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION
 
刑法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
 
民法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
 
■国際電気通信連合関係の主要法令
国際電気通信連合憲章
http://www.soumu.go.jp/main_content/000171443.pdf
 
国際電気通信連合条約
http://www.soumu.go.jp/main_content/000171443.pdf
 
※リンク先には,憲章と条約の説明書を含む。
 
■高度IT社会建設に向けた政府方針
高度情報通信ネットワーク社会形成基本法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412AC0000000144
※同法令の背景については,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の
ウェブサイトhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/index.html>を参照。
 
■電気通信・放送にかかわる主要な法令
有線電気通信法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000131
 
電波法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000131
 
電気通信事業法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=359AC0000000086
 
放送法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000132
 
日本電信電話株式会社等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=359AC0000000085
 
犯罪捜査のための通信傍受に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000137
 
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000137
 
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420AC1000000079
 
※インターネットの適正利用について
http://www.tca.or.jp/information/proper.html
 
※違法・有害情報フィルタリングについて(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/policy/filtering.html
 
※プロバイダ責任制限法関連情報ウェブサイト
http://www.isplaw.jp/
 
※プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会
http://www.telesa.or.jp/consortium/provider/
 
※帯域制御ガイドライン運用基準検討協議会
https://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/
 
※インターネットの安定的な運用に関する協議会
https://www.jaipa.or.jp/other/mtcs/
 
■情報セキュリティに関わる主要法令
サイバーセキュリティ基本法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC1000000104
 
外国為替及び外国貿易法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000228
 
公益通報者保護法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000122
 
※情報セキュリティに関しては,本表に掲げた法令の多岐にわたる条文で規定されている。
情報セキュリティにかかわる主要法令の条文,およびその解説やガイドラインは,以下を参照。
総務省「国民のための情報セキュリティサイト 情報セキュリティ関連の法律」<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/basic/legal/>
 
内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」(特に付録1)
https://www.nisc.go.jp/security-site/law_handbook/index.html
 
総務省「情報セキュリティ関連の法律・ガイドライン」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/basic/legal/index.html
 
■電子商取引にかかわる主要法令
定型約款に関する規定(民法548条の2~4)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
http://www.moj.go.jp/content/001255638.pdf
 
電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000095
 
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC1000000026
 
特定商取引に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057
 
■情報通信ネットワークにおける本人認証にかかわる主要法令
不正アクセス行為の禁止等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000128
 
電子署名及び認証業務に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102
 
電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(公的個人認証法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000153
 
携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC1000000031
 
※電子認証・電子署名に関する情報
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/ninshou-law/law-index.html
 
■知的財産権と市場秩序にかかわる主要法令
著作権法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048
 
特許法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
 
商標法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127
 
意匠法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000125
 
半導体集積回路の回路配置に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=360AC0000000043
 
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000054
 
不正競争防止法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000047
 
■個人情報にかかわる主要法令
個人情報保護委員会
https://www.ppc.go.jp/
 
個人情報保護にかかわる法令・ガイドライン等
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/
 
行政機関・独立行政法人等における個人情報の保護
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/kenkyu.htm
 
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000057
 
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000058
 
独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人個人情報保護法)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000059
 
行政機関の保有する情報の公開に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000042
 
■風俗営業および性風俗関連特殊営業および児童ポルノに関する法令
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000122
 
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC1000000052
 
■インターネット広告に関する法令・ガイドライン等
一般社団法人日本インタラクティブ広告協会
https://www.jiaa.org/gdl_siryo/
 
※「ネット広告の情報開示義務化 政府方針、巨大ITに」『日本経済新聞』2021年4月27日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA266HP0W1A420C2000000/
 

(以上)