論文賞 推薦の辞
電子楽譜から点字楽譜を生成するインターネット連携自動翻訳システム
後藤 敏行  ・ 田村 直良  ・ 立野 玲子
(和文論文誌D 平成22年10月号掲載)
 多数の電子楽譜がWeb上で公開されるようになり,晴眼者は様々な電子楽譜を容易に入手・利用可能である.一方,視覚障害者にとって,点字楽譜の入手・利用はいまだに困難な状況である.点字楽譜には表記の多様性があり,利用者の経験や習熟度に応じて一つの楽譜から様々な点字楽譜を生成する必要がある.そのため,適切な点訳を行うにはかなりの知識と経験が必要である.また,点訳を支援するソフトウェアはいくつか存在するものの,Web上での利用を考慮した場合,その機能は必ずしも十分でない.その結果,点訳から点字楽譜公開までの作業が計算機上で容易に行えるとは言い難い状況が続いている.
  そこで著者らは,MusicXML形式の電子楽譜から点字楽譜を自動生成するシステムを長年に渡って研究開発してきた.このシステムをWeb上で公開し,利用者の評価を積極的に採り入れてシステムの評価と拡張を継続的に行っている.本システムは交響曲を含む様々な種類の楽譜を点訳可能,かつ点字楽譜における表記の多様性に対応するなど高い翻訳機能を備えている.これら機能は,実際に点訳に携わるボランティアによる評価実験で高い評価を得ている.また,本システムに特徴的な機能として,Web上での点字楽譜生成を実現しており,インターネットに接続可能な計算機さえあれば,点訳者は自己所有またはWeb上の電子楽譜から高品質な点字楽譜を生成することが可能である.更に,他サイトで公開されている電子楽譜から点字楽譜を生成する機能を備えている.著作権法上,著作物の翻訳には著作権者の許諾が必要であるが,点字への翻訳に関しては著作物の翻訳・公開の際に許諾を得る必要がない.この点を考慮した上で,適法性を確保しつつ点字楽譜を公開可能なシステム設計がなされている.
  以上のように,提案システムはWebとの連携機能など従来のシステムにない特徴をもち,点訳作業の効率向上のみならず,一般に入手困難な点字楽譜の入手性を改善するもので,その社会的意義は極めて大きい.システムを公開し,利用者の意見を積極的に採り入れて改良を重ねている点も高く評価できる.

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