論文賞 推薦の辞
Efficient Implementation of Inner-Outer Flexible GMRES for the Method of Moments Based on a Volume-Surface Integral Equation
千葉 英利  ・ 深沢  徹 ・ 宮下 裕章 ・ 小西 善彦
(英文論文誌C 平成23年1月号掲載)
 本論文は,実規模の電磁波放射・散乱問題に対して,積分方程式法に基づく高速・高精度数値解析法の実用化を目的とし,連立方程式の反復解法に対する前処理法に着目した高速化手法について論じている. 昨今の情報通信技術,計算機技術の発展に伴い,科学技術計算においては,解析対象の更なる大規模化,および解析の高精度化が求められている.特に第一線の設計の場においては,数値解析技術の高速化・高精度化が必須であり,この確立をもって初めてComputer Aided Engineering(CAE)技術による生産性向上が実現される.
  そのような背景の元,本論文では,高速多重極法を併用したモーメント法の高速化を実現している.高速多重極法においては明示的に係数行列が生成されず,従来の固定的な前処理法を適用する際には,係数行列要素の内,近傍領域の相互作用成分に対する直接計算部分の情報のみを用いて前処理を行う.よって問題が大規模になる程,連立方程式の自由度に対する情報量が少なくなることから,有効な高速化を実現することが困難であった.一方,一般に可変型前処理を利用することが可能なflexible版反復解法では,多重極展開表現された遠方領域の相互作用成分を含めた前処理が行えるため,高速多重極法の特性を最大限に有効利用することができる.その際可変型前処理内での行列ベクトル積計算については,その近似精度を明確に定義する方法は存在しない.そこで,多重極展開の打切り次数をパラメータとしてその精度と計算量が制御できるという高速多重極法の特徴に着目し,精度の異なる2つの多重極演算子を生成した上で,外部反復用には高精度,内部反復には低精度のものを適用する手法を提案している.また実規模問題における数値実験により,適切な内部反復の打ち切り次数を選定することで,提案手法は従来手法に比較し,高い解析精度を保ったまま大幅な高速化が達成できることを実証している.
  以上本研究は,高速・高精度数値解析法を開発し,最終的にはそれらの効果を実規模レベルの検証例題により明らかにしたものである.これらの成果は,単に電磁波問題の数値解析技術分野に留まらず,CAEの発展およびその実用化に貢献する所が多大であると高く評価できる.

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