論文賞 推薦の辞
Dual Evanescently Coupled Waveguide Photodiodes with High Reliability for over 40-Gbps Optical Communication Systems
芝  和宏  ・ 鈴木 康之  ・ 渡辺さわき ・ 筑間 直行
竹内  剛  ・ 牧田紀久夫
(英文論文誌C 平成22年12月号掲載)

 モバイル機器などの普及拡大に伴い、情報通信量は急速に拡大しており、幹線系光ネットワークでは1波あたり40Gbps、さらに100Gbpsの高速、大容量通信の実用化が急務となっている。この大容量通信では、位相変化を利用して多値を制御できる、差動位相変調方式(DPSK)や四相位相偏移変調方式(QPSK)が検討されており、これらに対応する光受信器の性能としては、@高速、A高効率、B高信頼に加え、S/N比改善のため2つの受光素子を並列実装する対称型構造が求められている。さらに、光受信器の前段に光増幅器を配置する構造であるため、C耐高光入力特性も必要である。
  本論文では、上記要求を満足する新しい装荷構造の導波路型受光素子が提案され、その最適特性を導く転送行列設計法を明らかにしている。さらに、その設計法を元に試作した43Gbps-DPSK用受光素子において、0.95A/Wの高い受光感度と50GHzを超える3dB帯域を実証している。
  著者らは、導波路型構造により、光の吸収長を確保して高効率を図り、同時にそれと垂直方向に走行するキャリアの距離を短路化することにより高速性も実現した。さらに、この端面入射による受光領域の局在を防ぐために、光入射層の上に光受光層を積層する装荷構造を採用し、光入射層からのエバネッセント結合(光の漏れ)による光吸収と光進行方向での光吸収強度の平滑化を実証している。加えて、この装荷型構造の特徴により、高信頼性および耐高光入力特性も明らかにしている。
  このように、次世代の大容量光通信に対して、新しい構造の受光素子の理論的解析法を確立した点は意義が大きく、それを元に設計した素子において世界最速の特性を実証できた点は極めて価値が高い成果である。また、受光素子に対して、InP HBTを用いた高利得、広帯域トランスインピーダンスアンプとの組み合わせにより、コンパクト且つ低消費電力な受信モジュールも実現させ、さらに、100Gbps受信を可能にする3dB帯域が80GHzの受光素子も実現できているなど、実用化が期待できる完成度を有しており、論文賞にふさわしい成果である。

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