論文賞 推薦の辞
Near-Optimal Signal Detection Based on the MMSE Detection Using Multi-Dimensional Search for Correlated MIMO Channels
鄭  黎明 ・ 府川 和彦 ・ 鈴木  博 ・ 須山  聡
(英文論文誌B 平成23年8月号掲載)
 本論文は,MIMO (Multiple-Input Multiple-Output) 無線通信の新しい信号検出法を提案している.MIMO無線通信の最適信号検出は,最尤推定に基づく MLD (Maximum Likelihood Detection) であるが,MLD の演算量は,変調多値数や送信アンテナ数が増えると,実装不可能な程膨大になる.そこで,この演算量を大幅に削減でき,かつ MLD からのビット誤り率 (BER: Bit Error Rate) 特性の劣化が少ない準最適信号検出が望まれる.本論文が提案する準最適信号検出は,MMSE (Minimum Mean-Square Error) 検出を起点として,MMSE 検出の複数の雑音強調方向に送信信号候補を探索する.MMSE 検出は線形受信であり,演算量が非常に少なくて済むが,チャネル行列が悪条件の場合には,雑音強調により BER 特性が大幅に劣化する.したがって,送信信号は MMSE 検出を起点として,雑音強調方向に存在する確率が高くなり,提案方式はこの原理に基づき信号探索を行う.移動通信のような空間相関が高いMIMOチャネルにおいては,雑音強調の度合が大きい方向が複数存在するので,多次元探索が必要となる.多次元探索の演算量を削減するため,提案方式は送信信号の候補数を送信アンテナ数の一次のオーダに制限している.具体的には,硬判定されていない送信信号候補は,あるストリームの信号が一つの変調シンボルに一致するという拘束条件の下に,対数尤度関数を最小にするよう求める.最終的な判定信号は,MMSE検出と送信信号候補の硬判定値の中から,対数尤度関数を最小にするものが選ばれる.なお,提案方式は符号化した通信システムにも適用でき,誤り訂正符号の復号器が必要とする符号化ビットの対数尤度比を,容易に求めることができる.計算機シミュレーションにより,空間相関を有するMIMOチャネルにおいて,提案方式は従来の一次元探索に較べて同程度の演算量で,BER特性を大幅に改善できることを明らかにしている.以上要するに,本論文の信号検出法は空間相関の高い MIMO チャネルでも,演算量を実装可能な程削減でき,かつ良好なBER 特性を達成できる.

CLOSE