功績賞 推薦の辞
村上 篤道
  村上篤道君は,昭和46年東北大学工学部通信工学科を卒業され,同年三菱電機株式会社に入社されました.通信機製作所でシステム機器の設計開発を経た後,開発本部にて通信方式や映像信号処理,情報理論の研究開発に取り組まれ,平成9年同社情報技術総合研究所部門統轄,平成12年同研究所副所長,平成14年同社先端技術総合研究所副所長を歴任された後,平成15年に同社開発本部役員技監となられ,現在に至っております.この間,平成14年に東北大学で博士号を取得されました.
  同君は1980年代初頭に,ディジタル化された映像データをブロック化した後に多次元ベクトルとして量子化するベクトル量子化技術を開発され,1984年には世界に先駆けてベクトル量子化による64kbit/sでの映像伝送を成功させました.本研究はISDNを想定したKDD,NTTとのテレビ会議・テレビ電話システム開発へと発展し,さらに同君はCCITT(現ITU-T)の低ビットレート映像符号化標準化に参加して数々の提案を行い,映像符号化の要素技術である動き補償予測つき変換符号化方式の変換係数量子化,伝送情報量の平滑化制御などの確立に大きく貢献されました.また同君は1980年代後半に,映像信号処理に適したバス構造と2次元のアドレス回路などを搭載したプロセッサを開発し,今日では携帯機器などにおいて主流となっているDSPによる映像符号化・復号を先駆的に実現されました.
  同君は1990年代にはISO/IEC,ITU-Tの共同作業である国際標準化MPEG-2の活動に参加され,インターレース構造を持つテレビジョン信号の性質を利用した動き補償予測や適応的な変換,符号化情報のパケット多重化転送方式など,今日の映像符号化方式のほぼ全てに共通する符号化・伝送技術の確立に貢献されました.さらに同君はMPEG-2を活用した衛星利用映像伝送装置,ATM利用映像伝送装置の開発を主導された後,NHKと共同でHDTV符号化伝送装置を開発され,今日のデジタル放送やDVDビデオによる映像メディアの普及と浸透に比類なき貢献をされました.現在も次世代映像符号化技術HEVC国際標準化に積極的に取り組んでおられます.
  本会においては,論文誌編集委員,評議員,PCSJ運営委員会委員,また本会監事(平成22-23年度)などを歴任され,学会の運営と活性化に尽力されました.また,情報理論とその応用学会会計理事,情報処理学会副会長,事業推進委員会委員長,映像情報メディア学会評議員,IEEE国際学会(ISITA, ISPACS)Technical Program Committeeなどとして,関連する分野においても学術の発展に大きな貢献をされております.さらに,大阪大学先端科学イノベーションセンター客員教授として教育面でも活躍されるとともに,ディジタルシネマコンソーシアム理事として高精細映像の活用促進に尽力され,郵政省電機通信技術審議会委員から総務省情報通信審議会委員などの役職も務められました.
  このような業績は多方面から高く評価されており,本会から昭和63年度業績賞,またIEEE論文賞,テレビジョン学会論文賞,開発賞,映像情報メディア学会功績賞,進歩賞,ハイビジョン技術賞,著述賞を受賞されています.また,開発された技術の実証および実用化の業績に対応し,R&D 100賞や発明協会特許庁長官賞ならびに多数の発明奨励賞を受賞されています.これらの評価の反映として,本会ならびにIEEE,映像情報メディア学会からフェローの称号を授与されています.
  以上のように,同君の映像・情報・通信分野をはじめとする本会および電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

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