功績賞 推薦の辞
三木 哲也
  三木哲也君は,1970年3月東北大学大学院工学研究科博士課程を修了し,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)電気通信研究所に入所されました.1982年より横須賀電気通信研究所基幹伝送研究部伝送方式研究室長,1989年よりNTT通信網総合研究所通信網推進研究部長,1992年2月からはNTT伝送システム研究所長を務められました.1995年には電気通信大学電気通信学部教授に就任され,2008年より国立大学法人 電気通信大学理事を務められ,2012年からは同大学特任教授として現在に至っておられます.
  日本電信電話公社入社後,いち早く光通信の将来性に着目し,光ファイバ伝送の黎明期の1974年に光伝送システムの研究に着手しました.F-32M,F-100M方式の研究開発において中心的な役割を果たし,1981年には日本初の光伝送システムの商用導入を成功させました.伝送装置の開発のみならず,保守用の光測定器,オペレーションシステム等,光ファイバ伝送全般にわたって基本となる技術を完成させ,その後の各種光伝送システムの本格導入の基盤を築きました.
  特筆するべき功績の一つが,WDM伝送技術の将来性を世界に先駆けて示したことです.1977年に光波長分割多重を提唱し,WDM(Wavelength Division Multiplexing)と命名するとともに,世界初の3波WDM伝送実験を成功させその有効性を示しました.
  現在,本格的インターネット時代を迎えて,各家庭に高速ブロードバンドを提供するFTTH(Fiber To The Home)が普及しています.三木哲也君は,1986年にPDS(Passive Double Star)方式を提案し,1990年代の実用化を目指し,研究プロジェクトを組織して研究開発を進めました.PDSは現在ではPON(Passive Optical Network)と呼称されています.PONの研究開発を進めつつ,FTTHの国際標準化・早期実用化を目指して,現在FSAN(Full Service Access Network)と呼ばれている欧米主要国とのフォーラム活動を1990年代半ばまで推進しました.この活動は,PONが国際標準化され,2000年代以後,広く普及していく大きな推進力となりました.
  このように,受賞者は光伝送システムに関し,1980年代以後の研究の方向づけと実用化の両面において大きな貢献を成し遂げました.
  1995年からは電気通信大学教授としてフォトニックネットワーク等の研究を精力的に行いつつ,後進の育成に尽力しています.2006年からはJABEE認定・審査調整委員会委員長として,全国の理工系大学高等教育プログラムの認定活動による教育の質向上を推進しており,教育面での貢献も非常に顕著です.
  これらの功績によって,1978年に本学会業績賞,2000年には本学会フェローおよびIEEEフェローを授与されています.
  本学会役員としての貢献も大きく,1996年には通信ソサイエティ会長,1999年には東京支部支部長,2001年には通信ソサイエティ英文論文誌編集長およびソサイエティ編集長,2003年からアクレディテーション委員会副委員長,2004年度には本会副会長・国際委員会委員長,2009年からは理事・規格調査会委員長を務められていて,その貢献は顕著です.また,IEEE ComSocにおいても1992年〜1993年にアジア太平洋委員会委員長,1998年からComSoc副会長を務めるなど,要職を歴任しており,グローバルな学会活動にも多大なる貢献をされています.
  さらには,2006年〜2007年には独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター特任フェロー,2007年度から総務省情報通信審議会専門委員,2008年度には独立行政法人メディア教育開発センター理事,2010年度から日本技術者教育認定機構理事,2011年度から (財)日本無線協会理事長を務めるなど,公的活動においてもリーダーシップを発揮されて来ました.
  このように,学会活動を含めた情報通信分野の発展および国際化への功績は極めて顕著なものがあり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

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