功績賞 推薦の辞
佐藤 健一
  佐藤健一君は, 1978年東京大学大学院工学研究科電子工学専門課程修士課程を修了し、同年、日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社, NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました。1985年には、British Telecom Research Laboratories 交換研究員を努められ、1999年にはNTT未来ねっと研究所フォトニックトランスポートネットワーク研究部長、2004年にNTT R&D フェローを経て、同年に名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻)に就任され、現在に至っておられます。
 日本電信電話公社入社後は、広帯域通信網の基盤技術であるATMをベースとするブロードバンドネットワークの研究、フォトニックトランスポートネットワークの研究を世界に先駆けて行い、多くの優れた研究成果を生み出して来られました。また、名古屋大学においては、次世代フォトニックネットワーク、超低消費電力ネットワーク等の産官学連携の研究開発活動を推進しつつ後進の育成に尽力されています。
  特筆すべき功績の一つが、1987年に、B-ISDNを実現する基本概念として、ATMバーチャルパスの概念を世界ではじめて提案し、新しい伝達網の構成法を示したことです。本概念はATMの基盤として広く用いられるとともに、現在IP/MPLS網で導入が加速されているLSP(Label Switched Path)実現の基礎となっています。更に特筆すべき功績として、1992年には、新たな時代を担う伝達網の基本概念として光パスの概念を提案し、これをベースにフォトニックトランスポートネットワークのアーキテクチャを提示しました。この間研究開発リーダとして研究プロジェクトを指揮し、光パスへの波長割当を含む新たなネットワーク設計手法、トランスポートノードシステムや光スイッチアーキテクチャの提案等、様々なキーテクノロジーの研究開発を先導し,多くの成果をあげられました。これらはいずれもITU-T国際標準として採用され、その後のトランスポートネットワークのあり方を決定づけました。バーチャルパス,光パスはいずれも日本国特許として成立しています。
  また、その卓越した創造力と指導力により、IPレイヤと光レイヤの統合を図ったフォトニックルータの研究開発を陣頭指揮し、2001年には世界初の超大容量フォトニックMPLSルータを実現しました。2002年に新たなアーキテクチャに基づくフォトニックトランスポートシステムとしてOXC(Optical Cross-connect/光クロスコネクト)が実験網JGN-2に世界に先駆けて導入され、その後、ROADM (Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)として実用化され現在に至っています。
  2004年からは名古屋大学大学院教授として、次世代フォトニックネットワークや新しい光ノードシステムをはじめとする幅広い研究開発活動並びに、後進の育成に尽力されています。また、光通信ネットワーク技術を中心とした多数の著書に加え、ECOCやOFCをはじめとする数多くの国際会議の委員、論文誌のエディタ、IEEE Award Committee委員等を務められるなど、国際的に幅広く活躍されています。
  本会では、1997-1998年度の編集理事、2000-2001年度には通信方式研究専門委員長 、2003-2004年度にはフォトニックネットワーク研究専門委員長、2008-2009年度には評議委員を歴任され、本会活動の発展に尽力されました。2000年には業績賞、2003年には本会フェローの称号を授与されています。また、1999年にはIEEEフェローの称号を授与されています。2003-2004年度には、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、最近では、2010-2011年度の本会評議員(地方)を歴任されています。
  このような業績は多方面から高く評価されており,2002年には文部科学大臣賞(研究功績者)を授与されました。また、1991年には本会論文賞、2007年、2008年には、本会ソサイエティ論文賞も受賞されています。
  以上のように、同君の本会並びに電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します。

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