業績賞 推薦の辞 | ||||||||
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今日、放送のデジタル化に伴う新たなサービスの一つに、携帯端末での放送受信がある。携帯端末向け放送サービス「ワンセグ」受信機能の搭載率は80%を超え、累計8000万台近くの市場を形成している。このワンセグ放送に不可欠な技術がオーディオ信号の圧縮技術である。従来、オーディオ信号を約1/10に圧縮する技術として聴覚心理に基づくオーディオ圧縮技術が用いられてきたが、携帯端末等の低ビットレートの無線伝送用途向けには、更なる低ビットレートオーディオ圧縮技術が要望されていた。以上の背景のもとに、受賞者らは低演算量オーディオ帯域拡張技術を開発し、MPEGオーディオ国際標準化に貢献した。同技術により、携帯電話や放送サービス向けに、オーディオ信号をより少ない情報量で伝送し、消費電力に関する制約の厳しい端末で受信できるようになった。
低ビットレートオーディオ圧縮技術に関する先行方式としては、圧縮率1/32を達成可能な帯域拡張技術が存在した。しかし、帯域拡張技術は所要演算量の多い複素フィルタバンクを用いるために、演算処理能力が低い携帯端末への搭載が困難であった。演算量低減のために実数フィルタバンクを用いると、帯域拡張処理による折返し歪み(エイリアシングによるスペクトル歪)に起因する音質劣化が問題となる。このため、携帯端末向けの放送サービスの実現には、低演算量かつ低ビットレートで高音質なオーディオ圧縮技術の新規開発が不可欠であった。 実数フィルタバンク使用に起因する折返し歪みは、帯域拡張処理におけるエネルギー調整により全てのサブバンドで発生する。しかしながら、聴感的な音質劣化は一部のサブバンドのみで発生し、音質劣化の程度はサブバンド信号のスペクトル特性に大きく依存することを、受賞者らは長年のオーディオ圧縮の研究開発で培った知見をもとに発見した。この発見に基づき、隣接するサブバンド間におけるスペクトル特性の関係を線形予測分析により定量化し、音質劣化を引き起こすサブバンドを検出する方式を新たに考案した。さらに、検出したサブバンドのエネルギー調整を、定量化した指標に基づき適応的に制限することで帯域拡張処理による折返し歪みを低減する方式を開発した。これにより、実数フィルタバンクを用いて従来と比較して演算量が40%少ない高音質な圧縮を実現し、携帯電話でのワンセグ受信として実用化した。 また、受賞者らは開発技術をデジタル放送などの多様な用途での利用を可能にするため、国際標準化ISO/IEC 14496-3(MPEG)、3GPPでの規格化に多大な貢献をした。2003年にMPEGで規格化されて以来、ワンセグ放送、着信音楽の配信やデジタルオーディオプレーヤー等、本技術は世界中の広範な用途で利用されている。さらに、聴感的歪み発生サブバンドの検出技術は、これまでのオーディオ圧縮技術の研究開発において極めて独創性が高いものであり、マルチチャンネルオーディオの低ビットレート圧縮技術など後継世代のMPEGオーディオ標準規格にも採用されている。 以上のように、受賞者らは低演算量かつ低ビットレートで高音質なオーディオ圧縮技術の研究開発を世界に先駆けて行い、携帯端末での手軽なオーディオ聴取を実現した。また同技術の国際標準化によってオーディオ放送・配信・蓄積における様々な新市場を開拓するなど、その貢献は極めて顕著であり、本会業績賞にふさわしいものである。 |
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参考文献 | ||||||||
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