業績賞 推薦の辞
LTEの実用化
尾上 誠蔵 ・ 三木 俊雄 ・ 中村 寛
 移動体通信のデータトラヒックが加速度的に増加する状況下において、移動体通信の高速化及び周波数利用効率の向上が常に求められている。そうした背景の元、受賞者らは2004年5月にLTEのコンセプトを提唱し、2004年12月、賛同を得た世界の主要ベンダー、オペレーター26社と共にLTEの検討開始を提案した。承認後、主要オペレーターの要求条件を中心となって取りまとめ、2006年6月からの詳細仕様検討では基本仕様の安定化作業を進めるとともに、3GPP全体の会議を推進した。
  2006年より試作装置の開発に着手し、屋内での伝送実験を経た後、2008年2月から実施した試作装置による屋外伝送実験にて下りスループット250Mbpsを達成し、LTEの実現性、有効性、周波数利用効率等を世界に先駆けて実機により確認した。2010年より開始された商用サービスにおいては、屋内局で下り75Mbps(帯域幅10MHz運用)、屋外局では37.5Mbps(帯域幅5MHz運用)を実現している。また、LTE-3G間のハンドオーバー機能は世界に先駆けて開発、導入した。
  尾上誠蔵氏はLTEの標準化活動開始にあたってSuper3Gを提唱し、第4世代移動通信への円滑な移行を目的としたコンセプト及び必要性を訴え、世界の主要ベンダー、オペレーターから多くの賛同を得て、LTEの検討開始を実現させた。標準化及び実用化においては、一貫して移動通信分野の研究開発に従事した経験を活かし、増加著しいトラヒックを収容できるよう無線電波資源の有効利用に腐心し、従来のW-CDMA/HSPA方式と比較して周波数利用効率はおよそ3倍、伝送遅延は約1/4となる無線システムの研究開発、標準化ならびに基地局装置の実用化を主導し、LTEシステム全体の規格策定、全体統括しシステムを実現させた。
  三木俊雄氏は端末の実用化に注力し先導してきた。なかでも、LTE対応端末通信プラットフォーム開発においては、LTEの高速大容量・低遅延通信実現に向け、グローバル展開を目指した無線プラットフォーム開発方針を策定し、国内ベンダーと共同で標準化に準拠したグローバル仕様であり既存システムとのハンドオーバー機能を有するプラットフォームの開発を推進してきた。 また、LTE対応端末の開発においては、上記無線プラットフォームの開発に加え、試験環境の構築から、端末ベンダーや通信プラットフォーム開発ベンダーと連携、試験実施にいたるまで多岐に渡り開発・実用化を推進・指揮した。
  中村寛氏はパケットコアで音声とパケットを一元化するLTE/SAE規格の設計、標準化に向けた技術規格の提案、移動通信用コアネットワーク装置の開発・実用化を行なってきた。商用システム開発においては、無線装置とコアネットワーク装置の機能分担を見直し、無線システムとの通信制御方式設計、方式仕様の策定、及び3Gエリアでのサービス提供も可能とする異無線間移動制御方式や常時接続を前提とした呼制御方式設計、方式仕様の策定を行うとともに、LTEコアネットワーク装置、オペレーション装置などの装置類の開発・実用化を統括・指揮した。
  以上のように、受賞者らはLTEのコンセプト提案から商用サービス開始に至るまで極めて大きな貢献をしたと考える。受賞者らの功績は極めて顕著であり、本会業績賞にふさわしいものである。
 
 
 
参考文献(日本語版)
[1]  北川、ほか:“豊かな生活に役立つ社会基盤となるLTEシステム・サービス概要”、NTT DOCOMOテクニカルジャーナル、Vol19、No.1、pp6-10
[2]  大久保、ほか:“高速・大容量・低遅延を実現するLTEの無線方式概要”、NTT DOCOMOテクニカルジャーナル、Vol19、No.1、pp11-19
[3]  鈴木、ほか:“LTEを収容するコアネットワーク(EPC)の開発”、NTT DOCOMOテクニカルジャーナル、Vol19、No.1、pp26-31
[4]  中森、ほか:“グローバル展開を目指したLTE対応端末通信プラットフォームの開発”、NTT DOCOMOテクニカルジャーナル、Vol19、No.1、pp37-43
 

図表(日本語版)

 
図1 :LTE導入イメージ

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