業績賞 推薦の辞
携帯端末用電力増幅器の多バンド化に関する先導的研究
福田 敦史 ・ 岡崎 浩司 ・ 楢橋 祥一
 小型軽量が重要な要素となる携帯電話機の設計において,各種回路の実装容量縮小は永遠の課題とも言える.新たな無線方式の導入やグローバル展開などにより、携帯端末が対応すべき周波数帯は拡大しており,それに伴い無線回路の容積は肥大化の傾向にある.2001年に商用化された帯域共用携帯電話機においては,対応する周波数帯(バンド)それぞれに対応する無線部が搭載されていた.消費電力や無線部分の特性を考慮した結果,当時としては複数の無線部を搭載することが最も適した手法であり,必然の選択であった.しかし,対応すべきバンド数が増大した場合,前述の手法では携帯電話の肥大化が避けられないことも明白であり,携帯電話用無線回路技術者にとって,いかに小型軽量で単一バンド用回路と遜色ない性能を有する多バンド対応回路を構築するかが新たな課題となっている.
  受賞者らは2003年頃から,携帯電話用無線回路のキーとなる電力増幅器(PA)の多バンド化研究を開始した.受賞者らのアプローチは,PAの構成要素である整合回路内に可変機構を設け周波数特性を可変する手法であり,その可変機構として,スイッチを用いた簡潔な構成を考案している.これは,携帯電話サービス用の周波数は標準化で定められるのでアナログ的な可変機構が必ずしも必要ないことに加え,高周波用可変素子として一般的であったPINダイオード可変キャパシタでは消費電力や大電力通電時のひずみの点で不利と考えたためである.
  受賞者らが提案した多バンドPAの基本的な構成は,単一バンド用PAの入出力端と外部とを接続する(系のインピーダンスと等しい特性インピーダンスを有する)伝送線路上の適切な位置に,スイッチと整合に必要なリアクタンス分を有する回路(整合ブロック)を配置するものである.スイッチが閉の場合には整合ブロックは伝送線路に接続され所望のバンドにおけるPAの整合に寄与するが,スイッチが開の場合には整合に寄与しない.原理的にはバンド数がどんなに増えようとも,対応することができる.実用に際しては,スイッチの挿入損失や,伝送線路からスイッチ内部の開閉点までの物理的な長さがPAの特性に影響を及ぼすが,これらは設計法に取り込むことで克服している.2010年には,3段構成3.5V動作PAにより,0.7〜2.5 GHz帯の9バンドをカバーし,どのバンドでも30 dB以上の小信号利得,34 dBm以上の出力,40%以上の最大電力付加効率を達成し,電気性能として目標であった単一バンド用PAと遜色ない性能を得たことを世界に先駆けて発表した.さらに,2011年には実用化に向けて小型化を図り,1.5GHz〜2.5GHzに対応するPAを大きさ約6mm×8mmで構成した試作機を発表している.
  受賞者らによる2004年の2バンドPAの発表以降の継続的かつ多岐にわたる成果発表は,無線回路に関する研究分野のみならず,無線部の広帯域化において同様の課題を抱えていたソフトウェア無線やコグニティブ無線の研究者,あるいはスイッチデバイスの研究者にも認知が進み,国際会議等での招待講演も多い.受賞者らの取組みとその成果発表により示された無線回路の多バンド化に対するニーズは無線回路,通信,デバイスなど幅広い分野の技術者に影響を少なからず与え,無線回路の多バンド化およびその応用についての研究開発を先導したといえよう.このように,受賞者らの業績は極めて顕著であり,本会業績賞にふさわしいものである.
 
参考文献(日本語版)
[1] A. Fukuda, H. Okazaki, T. Hirota, and Y. Yamao, “Novel Band-Reconfigurable High Efficiency Power Amplifier Employing RF-MEMS Switches”, IEICE Trans. Electron., E88-C, 11, pp.2141-2149(2005-11)

[2] A. Fukuda, H. Okazaki, and S. Narahashi, “Highly Efficient Multi-Band Power Amplifier Employing Reconfigurable Matching and Biasing Networks”, IEICE Trans. Electron., E93-C, 7, pp.949-957(2010-07)

[3]A. Fukuda, K. Kawai, T. Furuta, H. Okazaki, S. Oka, S. Narahashi, and A. Murase, “A high power and highly efficient multi-band power amplifier for mobile terminals,” IEEE RWS 2010, pp.45-48, Jan. 2010.

[4] T. Furuta, A. Fukuda, K. Kawai, H. Okazaki, and S. Narahashi, “Compact 1.5 GHz to 2.5 GHz multi-band multi-mode power amplifier”, IEICE Electronics Express, Vol.8, No.11, pp.854-858 (2011)

[5] A. Fukuda, T. Furuta, H. Okazaki, S. Narahashi, and T. Nojima, “Low-loss Matching Network Design for Band- switchable Multi-band Power Amplifier,” Accepted for publication in IEICE Trans. Electron. E95-C, (2012-07)

図表(日本語版)
図1:多バンドPA基本構成図
図2:小型化多バンドPA
 

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