論文賞 推薦の辞
スペクトル理論のパターンマッチングへの応用とその性能評価
上瀧 剛 ・ 内村 圭一
(和文論文誌D 平成25年8月号掲載)

上瀧 剛

内村 圭一
 コンピュータビジョンの分野では,画像の中から所望の物体を探し出す方法として,パターンマッチングを用いるのが一般的である.このような方法としては,2枚の画像の相関値に基づくものや,代表的な特徴点を照合する特徴点マッチングを用いることが多い.これらの方法では,対象物体の回転やスケールの変化に対応するために,姿勢の異なる複数のテンプレート画像を何度も用いて照合を行う.例えば,SIFTなどの特徴点検出法においては,入力画像を異なるパラメータでぼかして生成した多くのぼけ画像を用いて特徴点を検出する.このような処理を実際に行うと,計算量がばく大になってしまったり,適切なパラメータを設定できないことに起因する精度低下が起きてしまったりといった問題が生じてしまう.
 本論文では,これらの問題を回避するために,関数解析学におけるスペクトル理論を用いることでスケールの異なる無限枚数の画像を主成分分析で圧縮した場合の理論的な解を導出し,パターンマッチングに応用する方法を提案している.具体的には,ガウシアンスケールスペース及び,Scale Normalized LoG空間に対して,連続的な固有方程式の解を多項式により近似して求める方法を提案している.応用例として,任意のスケールのぼけ画像生成法とSIFT特徴点検出法が示されているが,いずれの応用例でも,非常に簡便な方法で高い精度の結果を得ることが示されている.本手法は,理論的な美しさもさることながら,その応用先の広さ,並びに今後のコンピュータビジョンの発展に寄与する可能性が大きいことから,論文賞にふさわしいものと言える.

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