論文賞 推薦の辞
Path Loss Model with Low Antenna Height for Microwave Bands in Residential Areas
佐々木 元晴 ・ 山田 渉 ・ 北 直樹  ・ 杉山 隆利
(英文論文誌B 平成25年7月号掲載)

佐々木 元晴

山田 渉

北 直樹

杉山 隆利
 本論文は,マイクロ波帯における低アンテナ高伝搬損推定モデルに関して報告している.近年,端末間における干渉検討や,スモールセルを代表とするセルの狭小化に伴い,低アンテナ高環境における検討が重要視されている.
 低アンテナ高環境における伝搬損モデルの先行研究として,都市部の低アンテナ高基地局に着目したストリートマイクロセル環境のモデルが報告されている.このような環境では,電波は周囲の大きな建物に遮蔽されるため,道路沿いの伝搬経路のみが支配的となる.そこで,道路に沿った距離減衰などを用いた伝搬損モデルが複数提案されている.ところが,これらのモデルで考慮しているのは直角に曲がる道路形状など,ストリートマイクロセル環境に特有の領域のみである.そのため,ゆるやかにカーブする道路などが多数存在する住宅地環境への適用は難しい.また,小さな建物が多い住宅地環境では道路沿いの伝搬経路以外に様々な経路が伝搬損に影響する.更に,送受が常に入れ替わる端末局間における伝搬損モデルでは,送受の向きに推定結果が依存しない,すなわち可逆性が成立していることが不可欠である.
 本論文のモデルは,これらの問題点を鑑み,複数の測定結果を基に注意深く構築されている.著者らはまず到来波の角度分布測定と,アンテナ高を連続的に変化させる測定により,複雑な伝搬環境の中から支配的な三つの伝搬経路を明らかにしている.3経路とはすなわち,ストリートマイクロセル環境と同様の道路沿い伝搬経路,建物の間を通る建物間伝搬経路,建物の上を伝搬する屋根越え伝搬経路の3経路である.更に,これらの経路について幅広い周波数で伝搬測定を行い,道路状況,建物高,建物密度といったパラメータを考慮可能であるとともに,可逆性を満たした伝搬損モデルを構築している.これにより,本論文で提案されたモデルは様々な建物環境に適応可能なだけでなく,マイクロ波帯の幅広い周波数で適用可能であり,高い汎用性を有している.
 以上のことから,本論文は今後ますます重要になると予想される低アンテナ高環境における伝搬検討の基礎となる論文として評価でき,本会論文賞にふさわしい高い価値を持っている.
 

CLOSE