論文賞 推薦の辞
Bitwise Operation-Based In-Network Processing for Loss Tomography
松田 崇弘 ・ 滝根 哲哉
(英文論文誌B 平成25年2月号掲載)

松田 崇弘

滝根 哲哉
 通信ネットワークのモニタリング技術はネットワーク管理・設計を行う上で重要である.モニタリングの効率的な実現手法としてネットワークトモグラフィーがある.これは,ネットワークの端点に存在するノード間で転送されたパケットから得られるエンド─エンド間の通信品質から,ネットワーク内部の通信品質を推定する手法である.本論文では,リンクごとのパケット紛失率を推定するためのネットワークトモグラフィー技術について検討している.ネットワークトモグラフィーはエンド─エンドの通信品質とリンクごとの通信品質との線形連立方程式により定式化される.しかし,多くの場合,エンド─エンド間のコネクション数よりリンク数の方が多い不良設定問題となり,リンクごとの通信品質を一意に推定できない.
 この問題の解決手法としてネットワーク符号化を使った手法が提案されている.ネットワーク符号化は中継ノードにおけるパケットの符号化技術であり,ネットワークトモグラフィーに応用した場合,任意の有向非循環グラフでネットワークトモグラフィーを実現できるだけでなく,ネットワーク内を流れるパケット数を削減することができる.しかし,有限体で定義される線形ネットワークコーディングを用いた場合,ネットワーク規模に応じて有限体の要素数を大きく設定しなければならない.
 本論文では,中継ノードの新たな符号化方法を用いたネットワークトモグラフィーを提案している.本手法では,各パケットに記述される符号化情報は全経路数分のビット列で表現され,符号化は符号化情報内のビットごとの演算により実現される.これにより大規模有向非循環グラフ上でのネットワークトモグラフィーを簡易な演算により実現できる.本論文では更に,符号化情報からリンクごとのパケット紛失率推定のためのゆう度関数を導出する手続きについても述べられている.
 提案手法はアイデアとして斬新なだけでなく,符号化をビット演算で実現するため,より実現性の高い手法である.また,論文の内容は理論的ではあるが,分野の異なる研究者にも理解しやすいように例を交えて丁寧に記述されている.以上により,本論文は学術的にも実用面でも優れており,論文賞としてふさわしい.

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