名誉員 推薦の辞
田 進
 田 進君は,1971年京都大学工学部電子工学科を卒業,1973年同大学院工学研究科修士課程を修了し,同年4月京都大学工学部助手に任用されました.1978年5月に同大学にて工学博士の学位を取得され,1979年6月同大学工学部助教授,1992年3月同大学工学部教授,その後大学院重点化に伴い同大学院工学研究科そして情報学研究科教授を経て,2013年3月に同大学を定年退職されました.現在は同大学の特任教授・名誉教授として引き続き電子情報通信分野の発展に尽力されています.
 同君は,光ファイバによる先駆的な計算機結合の研究に加えて,高速ディジタル通信や高密度磁気記録等を狙いとした伝送路符号・記録符号の研究で工学博士の学位取得後,移動通信のれい明期の1976年頃からアンテナ・伝搬・システムに関する研究に着手され,この分野の第一人者として,その後の移動通信技術の発展に大いに貢献されました.
 同君の特筆すべき功績の一つは,移動通信のディジタル化にあたって大きな課題であったマルチパス伝搬に伴う周波数選択性フェージングに起因する誤り発生機構に関する研究を行い,マルチパス伝搬下でかえって誤り率が改善する耐多重波変調方式を見いだすなど,課題解決のための斬新な技術提案を行ったことです.加えて,セクタアンテナによる空間的な信号処理と適応等化器による時間的な信号処理を組み合わせた先駆的な受信方式を提案し,それを契機として,トレリス符号化同一チャネル干渉キャンセラを提案し,空間分割多重伝送系の可能性を示されました.また,分散制御無線ネットワークの将来性にいち早く着眼し,マルチホップ無線ネットワークの周波数利用効率等,基本特性の解明に向けた研究を行ったほか,分散アンテナを前提としたマルチユーザMIMOに関する実証的研究等を実施されました.
 このように,同君は無線通信技術に関して,1980年代以後の研究の方向付けと実証的な研究の両面において大きな貢献を成し遂げられました.また,当該分野の国際学術交流にも積極的に取り組まれたほか,後進の育成にも尽力され,多くの優れた人材を産業界や大学に輩出されており,教育面での貢献も非常に顕著であります.
  これらの功績によって,本会学術奨励賞,論文賞,業績賞,電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,情報通信月間・総務省近畿総合通信局長表彰,エリクソン・ テレコミュニケーション・アワード,電波の日・総務大臣表彰,大川賞等を受賞され,本会フェロー称号も授与されておられます.本会役員としては,会長,副会長,通信ソサイエティ会長,編集理事,関西支部長などを歴任され,本会への貢献は極めて顕著であります.また,日本学術会議会員,総務省情報通信審議会委員,新世代ネットワーク推進委員会構成員などの要職も歴任され,公的活動においても大いに貢献されました.
 以上,本会並びに国内外の関連学会,大学における研究教育活動,海外の大学・研究機関との学術交流活動を通じて,産業と社会に貢献し,電子情報通信分野の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

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