論文賞 推薦の辞
小脳・マシンインタフェースによる単一Purkinje細胞活動と
運動学習の因果関係直接評価法
片桐和真 ・ 田中良幸 ・ 平田 豊
(和文論文誌D 平成24年5月号掲載)
片桐和真 田中良幸 平田 豊      
 従来,前庭動眼反射の運動指令制御に小脳のPurkinje細胞が関わることは知られていた.ただし,これまでの研究では,行動変化と神経活動変化の相関関係からしか示されていなかった.そのため,運動学習による神経活動のパターン変化を直接観察できる実験手法が望まれていた.
 本論文では,金魚をモデル動物とし,単一Purkinje細胞の出力からブレイン・マシンインタフェースを使ってモータにより網膜誤差を生じさせるシステムを開発した.そして,金魚に利得調整の運動学習を行わせ,その過程の神経細胞出力を記録した.その結果,単一Purkinje細胞出力パターンが変化することでモータ制御の精度が向上し,網膜誤差を低減させることができた.このことより,Purkinje細胞の神経活動と運動学習の関係を直接実証した.
 単一のPurkinje細胞活動のみによりモータの動きを制御し,モータ制御の適応的変化を見ることで細胞出力パターンの変化を計測する手法は,従来のシステム神経科学では不可能であった計測を実現する斬新かつ独創的なものと言える.
 本論文では,金魚というモデル動物を用い,前庭動眼反射という回路と機構のよく分かっている系において,関係性を証明している.この論理はほかの動物への適用も可能であることを考えると科学への貢献度は高いと言える.また,小脳における学習機構の解明が進めば,ヒトを含む動物の感覚―運動器変換の学習の計算論を理解することができ,ロボット制御や運動障害に対する対応など様々な研究分野で有効性の高い論文と言える.
 全体として非常にレベルの高い研究内容であり,従来未知であった事象を実験的に実証した素晴らしい論文である.

CLOSE