論文賞 推薦の辞
プロセッサ設計手法の現状と今後
――高性能化を実現する設計フローと CADシステム――
伊藤則之 ・ 安永守利
(和文論文誌D 平成23年12月号掲載)
伊藤則之 安永守利        
 本論文は,1990年後半以降のプロセッサを対象とした文献123件の調査に基づくサーベイであり,高性能化を実現するための回路設計,設計フロー,CADシステムが多様な観点からまとめられている.プロセッサ設計の全体像を理解する上で価値あるサーベイとなっており,専門家はもちろん,幅広い研究者,学生にとっても最新動向や研究課題が把握できるよう工夫されている.
 本論文では,CADシステムを含む設計手法が論文として公表されている,Alpha,Cell,Cell Broadband,Itanium,Itanium2,POWER4,POWER6,SH-4,SPARC,SPARCV9,SPARC64,SX-9,S/390G5/G6,UltraSPARC,UltraSPARC T1/T2,Xeon,x-86-64 core,zSeries,z900をサーベイ対象としている.
 プロセッサ設計は,アーキテクチャ設計,論理設計,回路設計,物理設計の各段階に分けることができ,各々の段階で,CADシステムをどのように実現し,どのような手順で適用するかが高性能プロセッサを実現する上での鍵となる.中心となる設計技術として,動作周波数,クロック設計技術,遅延最小化,階層設計(ブロックサイズ,論理・物理境界),設計フロー,カスタム設計,タイミング最適化について,詳細にまとめられている.
 今後のプロセッサ設計では,半導体プロセスの更なる微細化に伴い,従来の決定的設計ではなく,製造のばらつきを考慮した統計的設計が必要となる.そして,統計的設計においては,チップ全体のタイミング歩留まりに最も影響を持つ回路部分を特定し改善することや,最大動作周波数のばらつきの約20倍のばらつきを持つ漏れ電流に着目し,漏れ電流を設計段階で統計的に考慮した設計が重要であることが示されている.
 最後に,こうした設計を実現するCADシステムは,設計の複雑さの増大に追いついておらず,今後も高性能なプロセッサ設計を続けていくためには,世界のプロセッサ設計で適用されている設計手法に関する知見をサーベイし理解することが重要であると締めくくっている.  以上のように本論文は,プロセッサ設計の現状と今後を把握する上で,極めて高く評価できる.

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