論文賞 推薦の辞
Low-Loss Matching Network Design for Band-Switchable Multi-Band Power Amplifier
福田敦史 ・ 古田敬幸  ・ 岡崎浩司 ・ 楢橋祥一 ・ 野島俊雄
(英文論文誌C 平成24年7月号掲載)
福田敦史 古田敬幸 岡崎浩司 楢橋祥一 野島俊雄  
 モバイル通信の大容量化及びグローバル化に対応するため,無線回路においては,複数の周波数帯(バンド)で動作できるようなマルチバンド化が求められている.これまでは,シングルバンド無線回路を必要なバンドの数だけ用意し,並列に配置することでマルチバンド化に対応してきた.しかし,今後想定されるバンドの増加に対して同様な手法で対処する場合には,回路規模の増大が懸念される.一方,無線回路の構成要素の一つである電力増幅器(PA:Power Amplifier)は消費電力が他の回路部より大きいことから,特にバッテリー駆動の端末において高い電力利用効率が求められ,低損失な整合回路が必要である.しかし,モバイル通信のように対応すべきバンドが広帯域に離散している場合には,低損失かつ各バンドで整合条件を最適化する整合回路の具現化は技術的に困難であった.
 著者らはこれまで,スイッチを用いて各バンドの整合回路素子を付加・分離することで,周波数特性を各バンドで最適化できる帯域切換型整合回路(BS-MN:Band Switchable Matching Network)を提案してきた.提案構成は,各バンドでの整合条件を独立に最適化できる必要最小限の素子数で整合回路のマルチバンド化を達成するため小形である.しかし,実際には挿入損やアイソレーション特性などスイッチ特性の不完全性によりBS-MNの損失が増大し,対応バンド数が制限される課題があった.本論文では,スイッチの不完全性によるBS-MNの損失を解析的手法により定量化し,マルチバンド化における整合条件最適化とBS-MNの低損失化を両立するBS-MN設計法を提案している.これにより,0.7〜2.5GHz帯3段構成4V動作9バンドPAを設計及び試作し,各バンドで30dB以上の小信号利得,33dBm以上の出力電力,40%以上の最大電力付加効率を達成し,シングルバンドPAと遜色ない性能を得ている.
 本論文は,マルチバンドPAの実用的な設計法を示し,広帯域で多くのバンドに対応するPAの実証を通してその妥当性を確認している点で高く評価できる.また,提案設計法は需要が急激に高まっている無線回路全体のマルチバンド化への応用も期待される.

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