論文賞 推薦の辞
High-Temperature Operation of Photonic-Crystal Lasers for On-Chip Optical Interconnection
武田浩司 ・ 佐藤具就 ・ 硴塚孝明 ・ 新家昭彦 ・ 野崎謙悟 ・ 
陳 錦慧  ・ 谷山秀昭 ・ 納富雅也 ・ 松尾慎治
(英文論文誌C 平成24年7月号掲載)
武田浩司 佐藤具就 硴塚孝明 新家昭彦 野崎謙悟  
陳 錦慧 谷山秀昭 納富雅也 松尾慎治    
 CMOS電子回路では,その動作速度を上げるためにスケーリング則に基づき寸法が小さくなっている.そのため,現在のCMOSでは配線層における消費電力が全体の半分を占めると言われている.この配線層における消費電力を削減するために,オンチップ光インタコネクションの研究が活発に進められている.ここでチップ上の光源には1bit生成するのに10fJ以下といった超低消費エネルギーが求められ,かつそれはCMOSの動作温度である80℃前後まで動作しなければならない.更に,チップ上の光インタコネクションには1Tbit/s以上といった大容量が必要とされているため,波長分割多重(WDM)等の多重化技術が必須となる.
 特にエネルギーの観点から,共振器及び活性層の体積を小さくしたナノ共振器レーザが注目されている.中でもフォトニック結晶(PhC)を用いたレーザは,垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)と比較しても小さな共振器モード体積と,金属を用いた共振器のレーザと比較して大きな出力パワーが得られることから,オンチップ光源として期待されている.
 本論文では上記の課題に対し,著者らの提案するPhCレーザを用いた成果を示している.著者らはInGaAsP量子井戸から成る微小活性層(体積0.23μm3)を,厚さ250nmのInPスラブに形成したPhC導波路中に埋め込み,室温から89.8℃までの範囲において連続発振を実現し,室温において最大出力パワー100μWを得た.また小信号応答の評価から,室温において11.6,また66.2℃において7.0GHzの3dB帯域を実現した.PhC格子定数を変化させた様々な素子が一括で作製されており,その発振波長は±1nmの精度で制御できていることが実験的に示されており,発振波長の温度依存性の実験データと合わせることでWDMの適用可能性が議論されている.PhCレーザの高温における動作報告は,著者らによるものが世界初である.
 以上のように,本論文において著者らは独自のPhCレーザを用いた先駆的研究成果を報告している.高温におけるPhCレーザの動作は,それをCMOSチップ上に集積していくための大きなステップとして,高く評価される.

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