名誉員 推薦の辞
三 木 哲 也
  三木哲也君は,1965年電気通信大学電気通信学部電波工学科を卒業,1970年東北大学大学院工学研究科博士課程を修了し,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社,研究所において主に伝送システムの研究開発に従事されました.1982年から同社横須賀電気通信研究所伝送方式研究室長,1989年から同社通信網総合研究所通信網推進研究部長,1992年からは同社伝送システム研究所長を務められました.1995年には電気通信大学電気通信学部教授に就任され,2008年から同大学理事を務められ,2012年からは同大学特任教授として現在に至っておられます.
 日本電信電話公社入社後,いち早く光通信の将来性に着目し,光ファイバ伝送のれい明期の1974年に光伝送システムの研究に着手しました.F-32M,F-100Mシステムの研究開発において中心的な役割を果たし,1981年には日本初の光通信としてこれらのシステムの商用導入を成功させました.伝送装置の開発のみならず,保守用の光測定器,オペレーションシステム等,光通信全般にわたって基本技術を完成させ,その後の光通信技術の発展の基盤を築きました.
 同君の特筆すべき功績の一つは,光波長分割多重技術の将来性を世界に先駆けて示したことです.1977年にこの技術を提唱し,WDM(Wavelength Division Multiplexing)と命名し,世界初の3波WDM伝送の実験を成功させその有効性を示しました.
 更に,ブロードバンドネットワーク実現の鍵であった各家庭への光通信FTTH(Fiber To The Home)が普及していますが,同君は1986年にPDS(Passive Double Star)技術を提案し,1990年代の実用化を目指してFTTH研究開発プロジェクトを組織してその基盤技術を実現しました.PDSは現在ではPON(Passive Optical Network)と呼称され標準化されていますが,同君はFTTHの国際標準化と早期実用化を目指して,現在FSAN(Full Service Access Network)と呼ばれている標準化フォーラム活動を主要国に呼びかけて1990年から開始しました.この活動は,PON技術によるFTTHがITU-T及びIEEEにおいて国際標準化され,2000年代以後,広く世界に普及していく大きな推進力となりました.
 このように,同君は光通信技術に関して,1980年代以後の研究の方向付けと実用化の両面において大きな貢献を成し遂げました.1995年からは電気通信大学教授としてフォトニックネットワーク等の研究を精力的に行いつつ,後進の育成に尽力しています.2006年からは(社)日本技術者教育認定機構(JABEE)認定・審査調整委員会委員長として,全国の理工系高等教育プログラムの認定活動による教育の質向上を推進しており,教育面での貢献も非常に顕著です.
 これらの功績によって,1978年に本会業績賞,2012年に本会功績賞,2000年に本会フェロー及びIEEEフェローの称号を授与されています.本会役員としての貢献も大きく,通信ソサイエティ会長及び同編集長,東京支部長,監事,副会長を歴任されています.また,2003年度から本会アクレディテーション委員会副委員長,2009年度から理事・規格調査会委員長を務められていて,その貢献は顕著です.また,IEEEにおいてもCommunications Societyのアジア太平洋委員会委員長,副会長などの要職を歴任されており,グローバルな学会活動にも多大な貢献をされています.
 更に,2005〜2008年独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター特任フェロー,2007年から総務省情報通信審議会専門委員,2008年独立行政法人メディア教育開発センター理事,2010年からJABEE理事,2011年から(財)日本無線協会理事長を務められるなど,公的活動においても尽力されてきました.
 このように,学会活動を含めた電子情報通信分野の発展及び国際化への功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

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