功績賞 推薦の辞
安 田  豊
  安田 豊君は,昭和48年に京都大学工学部電気系学科を卒業され,昭和50年に同電子工学科修士課程を修了,同年国際電信電話株式会社(KDD,現KDDI)に入社されました.以来KDD研究所においてディジタル衛星通信システムや誤り訂正符号化方式に関する研究開発に取り組まれ,昭和59年に京都大学から工学博士の学位を授与されました.
 昭和59年から2年間,インマルサット(国際海事衛星通信機構)本部に出向され,インマルサットシステムのディジタル化や将来システムの検討に参画しました.この間,同君の研究成果である誤り訂正符号化を含む最先端のディジタル技術の導入を提案し,移動体アンテナの小形化や通信容量の増大を可能とする移動体衛星通信システムのディジタル化の道筋を作りました.
 昭和61年に帰任後も,KDD研究所衛星通信研究室主任研究員として,次世代インマルサットシステムの具体的なシステム設計と装置試作,更には,船舶や航空機を用いた大規模な実証実験を主導し,実用性・有効性を検証しました.その結果,ディジタル衛星通信システムの先進性・有効性が世界各国で認められ,新世代のインマルサットシステムの導入及び普及が実現しました.
 平成2年KDD本社に異動後も,モバイル通信関係の技術開発や事業化をけん引し,平成15年にKDDI執行役員・au技術本部長,平成17年に同技術統括本部長などを歴任,平成23年からKDDI研究所代表取締役会長に就任され,現在に至っておられます.
 同君の数々の技術的貢献の中で特筆すべきものに,パンクチャド符号化/軟判定ビタビ復号誤り訂正方式を挙げることができます.これは高い符号化率でも優れた誤り率改善特性を保持できる誤り訂正方式であるとともに,伝送路の状況に応じて符号化率を柔軟に変えることができる点に特長があり,具体的には符号化率が1/2〜16/17に至るまでの一連の最適符号を探索・発見したものです.また,最ゆう復号を比較的少ない計算規模で実現可能とする軟判定ビタビ復号アルゴリズムと組み合わせることにより,当時は装置化が困難とされていた復号器を現実的なハードウェア規模で実現し,その実用化を大きく前進させました.
 同君が考案・開発した本方式は,符号化率を任意に変更して適応的に誤りを訂正できるため,移動体通信のように回線品質が大きく変動する環境下での効果が絶大であり,インマルサットディジタル衛星通信システムのみならず,インテルサットや日欧の衛星システム,第2〜3世代のディジタルセルラシステム,更にはテレビジョン放送のための衛星及び地上ディジタル放送システム等においても必須の誤り訂正方式として広く採用されるに至っています.
 同君は,長年にわたり総務省情報通信審議会専門委員,総務省地上デジタル放送推進に関する検討委員会専門委員,内閣府総合科学技術会議情報通信PT委員等の政府系委員会や,ITS情報通信システム推進会議情報通信PF専門委員長,モバイルITフォーラムモバイルコマース部会長,日本放送協会放送技術審議会委員など,各種の推進会議,フォーラム等の委員を務め,我が国の電子情報通信分野の発展に多大な貢献をされています.
 これらの業績によって,同君は本会から学術奨励賞及び業績賞,森田賞,電波産業会から電波功績賞,逓信協会から前島賞などを受賞し,平成17年には本会フェロー,平成20年にはIEEEフェローの称号を授与されています.
 以上のように,同君の電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信します.

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