功績賞 推薦の辞
萩 本 和 男
  萩本和男君は,1980年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程を修了し,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1999年にはNTTコミュニケーションズ株式会社ネットワーク事業部OSS担当部長を務められ,2000年にNTT未来ねっと研究所メディアネットワーキング研究部長,2004年にはNTT未来ねっと研究所フォトニックトランスポートネットワーク研究部長,2005年NTT先端技術総合研究所未来ねっと研究所所長を経て,2009年NTT先端技術総合研究所所長に就任され,現在に至っておられます.
 日本電信電話公社入社後は,基幹通信システムの大容量化をけん引し,ギガビットのれい明期からテラビット時代に至るまで,その根幹となる光通信技術の開拓と実用化を担ってこられました.とりわけ,光増幅による中継システムの研究開発は,従来の電気通信技術に比べて桁違いの大容量化と経済化をもたらしました.今日の社会基盤の一つである通信分野において,同君の功績により発展した大容量光ファイバ通信技術は,ディジタル社会の大動脈として欠くことのできないものになっています.
 その特筆すべき業績として,1989年に,安定化したエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)を構築して世界で初めて伝送実験に成功するとともに,飛躍的に伝送性能を高めたことが挙げられます.EDFAの持つ低雑音・広帯域・高出力特性を実証し,テラビット光伝送へ向けた扉を開きました.1996年には,EDFAを用いた光増幅中継による10Gbit/s光伝送システムを世界標準に導いて実用化したことにより,日米で導入が進みました.ここで用いられた光増幅中継方式は光伝送システムの基本方式として世界中で幅広く採用され,今日に至っています.その後,更に大容量化を進め,分布増幅器であるラマン増幅とEDFAを併用して,増幅帯域拡大と低雑音化を同時に実現し,テラビット級の高密度波長多重伝送技術を確立しました.この技術により40Gbit/s大容量多波長光伝送システムを実用化しており,本システムは現在,日本をはじめ多くの国で利用されています.また,卓越した見識と指導力により,海外キャリヤ連携などの数々のプロジェクトを指揮し,OTNの国際標準化,40G OTN-LSIの実用化とデファクト化に加え,産学官の連携にも指導的役割を果たして,種々の研究実用化を進めることで,産業界に大きなインパクトを与え,社会基盤の構築に貢献しました.
 2009年にNTT先端技術総合研究所所長に就任した後は,学会でのコンセンサス,並びに,国家支援のプロジェクトを通した産学官連携を推進することで日本の光通信業界全体の国際競争力強化を推進するとともに,後進の育成に尽力しています.また,1993年にはOSA光増幅器とその応用に関する国際会議の実行委員長(横浜),2011年にはIEEE International Conference on Communications(京都)のプログラム委員長など主要国際会議においても日本のプレゼンス拡大・地位向上に多大な貢献をしており,その功績はIEEEフェローをはじめ国際的にも認知されています.
 ここまで述べた功績により,1989年光産業振興協会桜井健二郎氏記念賞,1994年高柳記念電子科学技術振興財団高柳記念奨励賞,2007年逓信協会前島賞,2009年文部科学大臣表彰科学技術賞(開発),2009年産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞など,数々の著名な賞を授与されています.本会では1994年と2006年の2度の業績賞に加え,2005年にはフェローを授与されています.また,2001〜2002年度には光通信システム研究専門委員会委員長,2006〜2007年度には総務理事,2011年度には通信ソサイエティ会長を務められています.
 以上のように,同君の本会並びに電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

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