功績賞 推薦の辞
田 中 良 明
  田中良明君は,1979年3月東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了し,同大学講師として勤務されました.1984年に同大学助教授,1996年に早稲田大学教授,2008年には国立情報学研究所客員教授に就任され,現在に至っております.
 研究に関して,同君は情報通信工学に関する分野に取り組み,主に四つの研究,すなわち「符号化変調」,「暗号応用サービス」,「マルチキャスト通信」,「QoE(Quality of Experience)とプライシング」の分野を世界に先駆けて研究し,関連技術の進展に多大な貢献をしました.
 符号化変調の研究では,ディジタル波形伝送において連続するタイムスロット波形に相関がある場合に,受信側で復調に工夫を施すことにより誤り率を小さくできる原理を応用し,受信側の誤り率を小さくできる「多モード2進位相連続FSK方式」を考案し,この実績により本会業績賞(1980年)を受賞しております.
 暗号応用サービスの研究では,電子郵便による有印文書伝送方式は,郵便局におけるワンストップ行政サービスにその研究成果が活用されました.この研究が発端となり,暗号理論の研究は飛躍的に発展し,これらの功績に基づき,電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(1995年)を受賞しております.
 マルチキャスト通信の研究では,特にルーチング制御方式の基本原理やトラヒック設計理論の成果が今日のIPマルチキャスト通信の分野で生かされております.
 更に,従来のQoS(Quality of Service)を発展させた,体感品質QoE(Quality of Experience)に関わる新しい概念の明確化を図り,これを「ユーザ満足度」をQoEの測度として用いることにより,ネットワーク工学と経済学とを効果的に融合できる,通信理論や通信サービスの展開法を確立した実績は高く評価できます.同君がこの分野での研究に先べんを付けたことにより,本会論文賞(2005年)を受賞しています.
 上述の一連の研究に関して同君は,その重要性が十分には認識されていない時期から精力的に取り組み,パイオニアとして顕著な成果を達成したことは特筆に値します.
 また,同君は本会主催の国際会議の開催に尽力し,大会の英語セッションの活発化とグローバル化に貢献し,多数の優秀な人材を輩出するとともに,技術者倫理教育の普及を海外にも展開するなど,教育者としても優れた実績を有し,健全な技術社会の発展に貢献したことも特筆すべきであります.
 同君は本会ネットワークシステム研究専門委員会委員長(1999〜2000年度),テレコミュニケーションマネジメント研究専門委員会委員長(2002〜2003年度),和文論文誌B編集委員長(2003〜2004年度),評議員(2006〜2007年度,2010〜2011年度),編集理事(2008〜2009年度)を務め,更に日本ITU協会評議員(2002〜2011年)として尽力し,2011年から日本技術者教育認定機構理事を,2012年度は本会通信ソサイエティ会長を務め,情報通信の分野において学術の発展に多大な貢献をされております.
 これらの業績に加え,1994年に大川出版賞,2002年に電子情報通信学会フェロー,2006年に電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,2009年に総務大臣表彰を受賞されております.
 このように,学会活動を含めた情報通信分野の発展及び国際化への功績は,極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

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