業績賞 推薦の辞
低曲げ損失光ファイバの実用化
中島和秀 ・ 三川 泉 ・ 冨田 茂
中島和秀 三川 泉 冨田 茂      
 従来の単一モード光ファイバでは,曲げ部における信号光の減衰と,それに起因する取扱い性の低下が屋内光配線の妨げであった.そのような背景の下,受賞者らは曲げ損の飛躍的な低減を可能とする空孔構造光ファイバの研究開発に世界に先駆けて着手し,専門知識のないユーザでも通常の電気配線と同様の感覚で光配線が行える低曲げ損失光ファイバコードを実用化した.
 低曲げ損失光ファイバコードは,屋内の光配線で要求される,「直角曲げ」,「折返し」,「結び」など,自在の光配線形態を実現可能とし,国内外の通信事業者により利用されている.更に,空孔構造を導入した低曲げ損失光ファイバは,従来の光ファイバでは30mmであった最小許容曲げ半径を,世界標準の最高規格に準拠する5mm以下に改善し,屈曲部による光配線に対する実用上の制約を排除した.また,空孔構造の最適化により,従来の単一モード光ファイバと併用可能な伝送特性を実現している.低曲げ損失光ファイバは,ITU-Tの勧告G. 657として国際標準化されており,今日のFTTHの実現に欠かせない技術となっている.
 中島和秀君は,従来の単一モード光ファイバと同等のコアの周囲に,数個の空孔を配置した空孔アシスト構造の採用により,屈折率の変化量を従来技術の10倍以上に拡大し,曲げ損の飛躍的な低減を実現した.あわせて,空孔の直径とコアからの距離を最適化することにより,従来の単一モード光ファイバと同等の伝送特性を実現する,空孔構造光ファイバの設計条件を明らかにした.また,ITU-Tにおける低曲げ損失光ファイバの勧告化を推進し,低曲げ損失光ファイバ技術と,それを用いたFTTHの世界的な普及に貢献した.
 三川 泉君は,空孔構造光ファイバ端面の空孔部を封止してコネクタ化し低損失かつ信頼性の高い接続を実現するための空孔領域の封止条件について明らかにし,空孔構造光ファイバの実用化に多大な貢献をした.また,空孔アシスト構造により曲げ損失特性を低減した光ファイバの,宅内光配線コードへの適用性を早くから見いだし,その開発及び実用化を推進・指揮した.
 冨田 茂君は,光配線に適した柔軟性と,光ファイバの保護に十分な強じん性とを兼ね備えた光ファイバのコード化技術を提案・実現した.半径5mm以下の極小曲げ付与時においても,内部の光ファイバの伝送特性と信頼性を保持する,光ファイバコードの構造条件について明らかにした.また,カール構造の導入により伸縮性を有する光配線コードも提案・実現し,低曲げ損失光ファイバコードの実用化と,その応用領域の拡大に多大な貢献をした.


図1 低曲げ損失光ファイバコードの宅内配線への適用イメージ

 現在,低曲げ損失光ファイバコードは,国内外の宅内光配線で800万本以上利用されており,FTTHにおける光配線領域の拡大に大きく貢献している.更に,低曲げ損失光ファイバは,不意の曲げによる信号光の途絶を回避できるため,通信事業者の保守運用性の向上にも効果が期待できる.既に,3,000km以上の局内光配線で低曲げ損失光ファイバが利用されており,今日の光アクセスネットワークの構築に欠かせない要素技術となっている.
 以上のように,受賞者らはFTTHの進展において,既存の光ファイバにおける曲げ損失特性の改善が不可欠であることを早くから見いだし,低曲げ損失光ファイバの提案から,宅内光配線コードとしての導入,更には国際標準化における新規光ファイバ勧告の制定に至るまで多大な貢献をしたと考える.受賞者らの功績は極めて顕著であり,本会業績賞にふさわしいものである.
 
文献
(1) K. Nakajima, T. Shimizu, T. Matsui, C. Fukai, and T. Kurashima, “Bending-loss insensitive fiber with hole-assisted structure,” IEICE Trans. Commun., vol.E94-B, no.3, pp.718-724, March 2011.
(2) K. Nakajima, K. Hogari, J. Zhou, K. Tajima, and I. Sankawa, “Hole-assisted fiber design for small bending and splice losses,” Photonics Technol. Lett., vol.15, no.12, pp.1737-1739, 2003.
(3) 中島和秀,清水智弥,深井千里,平松克美,冨田 茂,“低曲げ損失空孔アシスト光ファイバに関する考察,”信学技報,OFT2008-47, pp.5-8, Nov. 2008.
(4) K. Nakajima, T. Shimizu, C. Fukai, T. Kurashima, and M. Shimizu, “Single-mode hole-assisted fiber with low bending loss characteristics,” IWCS ’09, no.9-3, 2009.
(5) K. Nakajima, T. Shimizu, T. Matsui, C. Fukai, and T. Kurashima, “Hole-assisted fiber as a bending-loss insensitive fiber,” Opt. Fiber Technol., vol.16, no.6, pp.392-398, 2010.
 

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