巻頭言

21世紀におけるIT研究・開発のために

野口 正一(会津大学長)

 21世紀においてさらに発展するITの技術革新、これによって今までにない社会システムの変革が生まれてきた。この急速な流れの中でITの研究・開発の考え方を我々はどのように定めたらよいのであろうか。
 新しい技術により社会が変わり、社会はさらなる新しい技術の開発を要求する。そして、これによりつぎの技術が生まれる。この自律システムのサイクルがドッグイヤーであり、このサイクルはさらに短くなってきている。
 この自律システムを動かす原動力は、社会からの技術開発に対する強い要求の力である。言い換えれば、IT研究、開発の視点は技術そのものの延長の上にあるのではなく、ビジネスのもつ圧力から考えなければならない。普遍化すればマーケットからの技術開発の圧力が最も重要な技術開発の方向を定めるものとなる。
 一方、革新的な社会変化の中でマーケットからの最大の圧力は、新しいビジネス創出の中から生まれてくる。
 この視点からすれば、新しいビジネスの創出を確実に予見すること。そして、その視点に基づく技術開発のプログラムを構築し、実行することが今後ITの研究開発の原点となろう。
 新ビジネス創出を予見するためには何が必要なのであろうか。
 第一は、今の社会システムを構築する複数の基盤技術を確実に理解する能力。
 第二は、その中でいくつかの基盤技術の融合により新たに生まれるビジネスモデルを構築できる能力。同時にそのマーケットのボリュームが十分に大きいことを確実に予見できるものでなければならない。
 携帯電話の世界とインターネットの世界を融合したNTT DoCoMoのi-modeの成功はこの典型的な例である。そして、この世界はモーバイルインターネットによる社会変革を急速に誘引し、これに基づく新しい技術開発の世界を急速に発展させていることは周知の事実である。
 まとめれば、21世紀のITの研究開発者に求められるものは、つぎに生まれてくる新しいビジネスの世界を予知できる高度な能力である。このためには、ただ単に技術の世界にのみに止まるのではなく、広く世の中の流れ、例えば金融、流通、エンターティンメント等をはじめとする社会システム全体に対する深い洞察力を持つことではなかろうか。
 21世紀における新しい発想の転換を希うものである。