巻頭言

モバイルITの展望

立川 敬二(NTTドコモ 社長)

 携帯電話によるインターネットアクセスを可能にしたモバイルインターネットが急速に伸びています。代表的なサービスであるiモードが成功した理由は、簡単に接続でき料金の安いパケットネットワークを使用したこととコンテンツが豊富なことです。この結果、通信事業者とコンテンツプロバイダーが「win-win」の関係を構築できました。モバイルインターネットは、固定空間のインターネットを移動空間に拡大したに過ぎませんが、IT革命の可能性を高めたとも評価できるでしょう。
 IT革命は、産業革命を凌駕するほどの大変革を人類にもたらすと言われています。個人生活においては、電話が普及し、いつでも、どこでも、誰とでもコミュニケーションを取れるようになり、距離を克服できましたが、さらにインターネットにより個人の好みに応じた情報を簡単に得られるようになりました。情報家電の進展も見えてきました。21世紀の個人生活は、これまでの物質文明の成果を享受したものから、ITを活用して、より精神的に豊かなものになるでしょう。
 一方、産業分野においては、人、物、金に加えて情報が経営のリソースとなり、情報活用の善し悪しが企業の盛衰を決めることになるでしょう。換言すれば、従来の物流を中心にした経済活動から、情報流通を中心にした経済活動に発展していきます。
 ITを活用したB2B(企業間)、B2C(企業-消費者)のビジネス展開が今後の経済活動の主流になるでしょう。B2Bは企業活動の効率化をもたらすプロセス・リエンジニアリングのみならず、バーチャル・リアリティを活用した新規事業を可能にします。また、B2Cにより、音楽配信や電子ブックのように従来なかった新しいサービスが提供されるようになり、消費者にとってより便利になるでしょう。そしてeコマースの世界が実現することになるわけです。
 モバイルITは、固定空間に閉じられた経済活動を移動空間にまで拡大します。移動空間にあるもの、すなわち、人間のみならず動くものすべてが情報発信源であり、また受信者になりうるわけです。自動車、オートバイ、船、飛行機、自転車のほか、携帯PCや犬・猫などのペットも対象になります。これらのものが移動中でも必要な情報のやりとりが簡単にでき、トランザクションを完了させることが重要になります。
 モバイルITを実現するためには、第一に、音声通信に加えて多様な非音声通信を可能にすること、第二に、「人対人」の通信から、「人対機械」「機械対機械」の通信に拡大することです。第三に、対象や目的に応じた使い勝手の良い多様で、高度な端末機器を開発することが必要になります。また、第四に、多様なアプリケーションサービスの開発も重要です。そして、第五に、モバイルの欠点であるフェージングによる瞬断に耐え、かつ盗用や悪用を防止できるように信頼性を高めることも課題です。
 21世紀には、これらの課題を解決し、モバイルITがより良い社会の実現に貢献するよう努力していきたいものです。